☆☆☆

神崎が遅刻をした原因は、昨日から引っ越しの準備をしていたからだったようだ。


あの後1人で対決へ向かった神崎は見事母親の幸せを勝ち取っていたのだ。


学校が終わり、自室でその話を聞いていた俺は大きく息を吐きだした。


「それならそうと言ってくれよ。なにかあったのかと思って心配しただろ」


「悪い悪い。その後色々あって大変だったんだよ」


父親との対決に勝利した後は、母親を説得する番だった。


もちろん、母親は神崎の言葉をすぐには信用しなかった。


しかしあの地下室を見せると納得せざるを得なかったようだ。


「あの時が一番辛かった」


神崎は思い出したように呟いて眉を寄せる。


守るためとはいえ、傷つけることになってしまったことは事実だ。


「それでも前に進まなきゃと思って、頑張ったんだろ?」


「あぁ。母親と一緒に飛ぶ。そう決めたからな。だからもうくだらないことで登校拒否をするのもやめた」


そりゃそうだ。


秘密の部屋のために登校拒否をしていたことを思い出して、俺は苦笑いを浮かべた。


そんな経緯があったからこそ、ここまで仲良くなれたのだけれど。


「ひとつ、いいか」


ふと思い出したことがあって俺は言う。


「なんだ? 何でも行ってくれ。ハジメのためなら俺頑張るから!」


目を輝かせる神崎。


今度は俺が問題事を相談すると思っているのだろ。


残念ながら、今の俺はいたって平和。


問題なんてひとつも持っていない。