気が付けば、神崎の家が目の前にあった。


俺は歩調を緩めて立ち止まる。


振り返ると、神崎が目を丸くして俺を見つめていた。


「ハジメって、時々恥ずかしいことを言うよな」


プッと噴き出す神崎。


そしてこらえきれなくなって大きな声で笑い出した。


瞬間的に、顔に血液が集まって来るのを感じる。


「俺は真剣にっ……!」


「わかってる。わかってるよ」


笑いながら神崎は言う。


本当にわかってるんだろうな?


俺のことをバカにしているようにしか見えない態度に、苛立ちが募る。


俺の言葉がわかりにくいのかもしれないけれど、慣れていないのだから仕方ない。


俺には、これ以上のことはできない。


神崎から手を離し、体を横へずらした。


神崎はひとしきり笑った後、清々しい笑顔を浮かべてほほ笑んだ。


「そうだな。母親を幸せにできるのは俺だけかもしれないな」


「俺はそう思ってる」


いくら金があっても、時間があっても、幸福だとは限らない。


夫から愛されない生活が幸せだとは、俺は思わない。


息子を利用するために結婚したと知ったら、その時母親がどう思うか。


空想の幸せは、いますぐぶち壊すべきだ。


「ありがとうハジメ。行ってみるよ」


「うん」


「もしダメだったら、その時は慰めてくれ」


その言葉に一瞬返事が出来なかった。


ダメだった時のことなんて考えなくていい。


成功するビジョンだけを持って、対決しに行けばいい。