玄関でサンダルをひっかけて、バタバタと足音を響かせて歩道を走る。


幸いなことに、その大きな背中はすぐに見つけることができた。


その背中を目視して、更にスピードを上げて走る。


足音に気が付いて神崎が立ち止まり、そして振り向いた。


目が合って、驚いたように見開かれる。


少し走っただけなのに夏の日差しのせいで額に汗が滲んでいた。


「どうしたハジメ」


キョトンとしたまぬけ面。


「お前……帰るなら帰るって一言いえよ!」


そう言って睨み付けた。


神崎はひるんだように眉を下げる。


「だいたいお前は俺に会いに来たんだろ!? なんだよ、何も言わずに帰るってさぁ!」


言ながら、だんだん腹が立って来た。


本当にこいつはいつでも自分勝手なんだ。


人の気持ちなんて全然考えてない。


自分のやりたいことを実行するために、人をブンブン振り回して来る。


だから今回は、俺がこいつを振り回す番だった。


「悪い。そんなに怒るなんて思ってなかった」


神崎が本当に落ち込んでいるのを見て俺はスッと息を吸い込んだ。


「お前こそ、形にはまってるじゃないか」


「え?」


「母親を幸せにしたいなら、今のままじゃダメだってわかってんだろ」


こんなことを言うと嫌われてしまうかもしれない。


そんな予感がありながらも、止めることができなかった。


神崎は俺を変えてくれた人だ。


そんな神崎が弱気になる姿なんて見たくなかった。