会社のために集めたファイルなのだから、当然そういう未来になるのだろう。


「いいのか、それで」


「いいも悪いも、俺は母親が幸せならそれでいいと思ってる」


しっかりとした声色。


そういえば、ファイルを見つけた時も『母親のことを愛していなかった』という事実にショックを受けた様子だった。


そのくらい、神崎は自分の母親を大切にしている。


「母親は今、幸せなのか?」


その質問にはすぐに答えが無かった。


振り返ってみると、神崎はぼーっと窓の外を見つめている。


電線には5羽の雀がとまっていて、こちらにお尻を向けていた。


「今までずっと苦労して、女で1つで俺を育ててたんだ。今は仕事も辞めることができて、やっと自分の時間が確保できたんだ」


「幸せかどうかって、聞いてるんだ」


自分の声が震えるのがわかった。


もう母子家庭の大変な生活には戻らせない。


神崎からそんな意思が伝わって来る。


「幸せに、決まってるだろ」


この声は今にも泣きだしてしまいそうだった。


俺はキュッと下唇を噛みしめる。


母親を守りたい。


楽をさせたい。


そのためにお前は地下室のファイルを見なかったことにして、自分の将来を捧げるのか。