「そんなこと言ってたら夏休みが終わっちゃうよ!」


優奈の焦りに似た声に、俺は数学の宿題へ視線を落とした。


確かにそうだな。


このまま夏休みが終わったら俺は数学の宿題ができていない状態で提出することになるだろう。


それは少々、まずい気がする。


でもなぁ、神崎に連絡するのかぁ……。


シャープペンシルを鼻の下に挟んで思案する。


神崎に電話をしたとして、まず第一声になにを言えばいいだろう?


今まで通りのノリで『よぉ! 元気だったか?』とかかな?


たぶんそれが一番無難なんだろうけれど、俺のコミュニケーション能力をバカにしちゃいけない。


凹んでいる人間に明るく声がかけれるのなら、こうして悩んではいない。


「なに1人でうんうん唸ってるの? 気持ち悪い」


自分の体を抱きしめて身震いをする優奈。


こっちは必死で考えているのに、気持ち悪いとは失礼な。


「とにかく、今は宿題中だ。後でな」


俺は優奈をシッシとあしらって宿題へ視線を戻した。


「宿題なんて全然進んでないくせに」


横から宿題を覗き込み、ふくれっ面をしている。


「これから本気を出すんだよ!」


そして強引に優奈の背中を押して部屋から追放した。


廊下に出た優奈がブツブツと文句を言うのが聞こえて来る。


「さてと、どうするべきかなぁ」


俺は右手にスマホを持って左手で頭をかいた。