どう見てもそれは異様な光景で、知らない間に背中に冷や汗が流れていた。


そして、思い出す。


書斎で神崎のファイルを見つけたことを……。


いまだに俺のファイルを手にして棒立ちになっている神崎へ視線を向ける。


神崎はファイルに視線を落としたまま微動だにしない。


俺は緊張からゴクリと唾を飲み込んで、神崎に近づいた。


「なぁ、このファイルって……」


そこまで言って、言葉を切った。


偶然視界に入った俺のファイル。


ページをめくったのか、そこには中学時代の成績が記入されていた。


そして、文字をすべて覆い尽くしてしまうような、大きなバツの印……。


その×印を見た瞬間、心臓が大きく跳ねた。


まるで俺自身が否定されている気分になった。


……いや実際にそうなのかもしれない。


俺は申し訳ない気分になりながらも、もう一度緒方優美さんのファイルを手に取った。


そして、成績が記入されているページを開く。


そこには俺と同じように大きな×印が書かれていたのだ。


でも、神崎のファイルにはこんな印はなかった。


成績の下に重要な情報だというように、赤い線が引かれていたことを思い出す。


「子供を……選んだんだ」


神崎が、俺のファイルを手から滑り落として呟いた。


「なぁ神崎、ちょっと冷静になろう」


「自分の仕事のために、父親は子供を選んで再婚したんだ!!」