空に飛べば

「い、いや、鍵はまだだ」


神崎は青い顔のまま答える。


「おっかしいなーこの部屋じゃないのかな」


俺はわざと大きな声でそう言い、頭をかいた。


ファイルのせいでなんだか妙な雰囲気になってしまったので、空気を変えたかったのだ。


他に鍵の隠し場所はどこかにあるだろうか?


例えば、本が一冊だけ小物入れになっていて、その中に入ってるとか?


そう考えて、俺は近くの本棚から一冊本を抜き取って確認した。


中は普通の本で、鍵も挟まっていない。


「もしかしたら段ボール箱の中にあるかもな。灯台下暗しってやつだ」


ここまで順調に喚問を突破してきた人間なら、鍵は書斎にあると考えてもおかしくない。


それを逆手にとって考えたのだ。


「そうだな。きっとこの部屋にはない。でも……」


ふと神崎が思い出したように視線を漂わせる。


「もしかして、俺の部屋か……?」


「は?」


あまりに突飛な答えに俺は瞬きを繰り返した。


なんでそう思うのか全くわからない。


「いや、それはないか。俺のファイルがあったから、つい」


そう言って頭をかく。


さっきのファイルのせいで神崎の思考回路はショートしてしまったみたいだ。


「例えばさ、父親のよく使う部屋が他にあるとか」


「それは……リビングとダイニングくらいかな。後はトイレと風呂と寝室」


「結構多いな……」


これだけ豪邸に暮らしていれば、その分使う部屋も多くなるのはわかる。


でも、それ全部をくまなく調べている時間はなさそうだ。


「行動範囲と神崎をくっつけて考えてみると……」


そう呟いた瞬間、違和感が胸の中に浮かんできた。


「そういえば、リビングにはお前の作った地球儀があったっけ」


記憶を辿って呟く。