「なにすんだよ! 人を荷物みたいに運ぶなよ!」


ようやく自分の足でしっかりと立ち、文句を言う。


「鍵だ、鍵を探さないといけない」


俺の文句なんてちっとも聞こえていない様子で、神崎は焦っている。


いつも余裕そうな顔の神崎でもこんな風に焦ることがあるんだな。


そう思うと面白くなって、神崎の表情をひとつも見逃さないように注目してしまう。


「なに見てんだよ。そういうのは後からでいいから」


俺の視線に気が付いた神崎が早口に言う。


おぉ、冗談の一つも言えないくらいに焦っているみたいだ。


徐々に楽しくなってくる俺。


「どうした神崎、鍵を探すんだろ? 一体どこを探すつもりだ?」


意地悪く質問をしてわき腹をつつく。


「それは……えっと……」


空中に視線を漂わせて黙り込む。


元々鍵なんてある予定じゃなかったから、想定外のことが起こって思考が停止しているのだろう。


いくら勉強ができても、肝心なときに頭の中が真っ白になるんじゃ使い者にならない。


俺は神崎の背中を押して歩き出した。


「とりあえずは、書斎だろ?」


監視カメラの映像を確認している場所は書斎だった。


それなら、大切な鍵も同じ場所に置いてあるかもしれない。


「あ、あぁ。そうだな」


神崎は何度か頷くと大慌てで書斎へと向かったのだった。