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神崎の父親の書斎は屋敷のど真ん中に位置していた。


玄関を入ってすぐの広いエントランスから見える、大きな扉が書斎への入り口になっていた。


「ここだ」


神崎が先に立って書斎のドアを開ける。


白くて清潔感のあるドアの向こうには、赤い絨毯が敷き詰められている。


その赤があまりにも鮮やかだったので、目がチカチカしてしまう。


20畳ほどありそうな広い空間の中央には黒い革のソファと、大理石のテーブル。


ソファに座った状態で見れるように壁掛けのテレビが設置されていて、部屋の奥へ視線を向けると社長用のデスクが置かれているのがわかった。


ソファの両端には銅製の、女性の像が置かれている。


女性は肩に陶器の器を乗せて、真っ直ぐに立っている。


テレビが置かれていない壁には、天井まで届く本棚が設置され、あらゆる種類の本がギュウギュウに詰め込まれている。


好奇心から本のタイトルを目で追いかけてみると、経済書が多く本棚と占領する中、趣味の小説と思われる文庫本も並んでいた。


ここは書斎兼、趣味の部屋なのかもしれない。


「この部屋にあるのはこれだけだ」


神崎が本棚をしげしげと眺めて言う。


モニターらしきものは見当たらないし、パソコンもないみたいだ。


試に引き出しをあけてみたけれど、難しそうな書類ばかりが詰め込まれている。


むやみに触ると順番が変わってしまってバレる可能性があるので、目視するだけにとどめて置いた。


「もしかしたら、スマホに映像が送られているのかもしれないなぁ」


俺は1つずつ可能性を消すために頭を働かせる。


監視カメラ映像がすべてスマホに流れていたら、その映像を入れ替えるのは至難の業になってくる。


なにせ、神崎の父親のスマホをこっそり奪わないといけなくなるのだから。


「とにかく、もう少し探してみよう」


神崎は気を取り直すようにそう言ったのだった。