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「流ちゃんに会いに行くんでしょ」


朝食を終えて歯磨きをしていると、後ろから優奈が声をかけてきた。


優奈はまだパジャマ姿だ。


「なんで?」


俺は歯磨き粉を飲み込んでしまいそうになりながら、どうにかそう質問した。


優奈には今日神崎の家に行くとは伝えていない。


言えば絶対について行きたいと言うに決まっているからだ。


「お兄ちゃんが遊びに行く相手なんて、流ちゃんしかいないでしょ」


失礼な!


俺は眉間にシワを寄せ、口の中の泡を吐き出した。


「俺にだって友達はいる」


「いるかもしれないけど、いつもより楽しそうだもん」


「楽しそうにしてたからって、神崎とアウトは限らないだろ」


「そんなことない! 私にはちゃんとお見通しなんだから!」


名探偵優奈はビシッと俺を指さしてそう言い切った。


「お兄ちゃんは流ちゃんと一緒にいるときが一番楽しそうだもん!」


そう言われて、俺は自分の両手で頬をひっぱってグネグネと動かしてみた。


そんなに楽しそうな顔をしていただろうか?


それは不本意だな。


「ねぇ、私もついて行っていいでしょ?」


優奈は俺の腕を掴んでブンブン振り回して来る。


「ダメ。今日はちょっと、大切な用事だから」


計画を話していないから、優奈を連れて行くわけにはいかない。


それに今回は優奈の知恵を借りなくてもなんとかなりそうなのだ。


「なんで!? 私だって流ちゃんに会いたい!」


優奈は駄々っ子のように叫び、更に俺の腕を振り回した。


ともすれば引きちぎれてしまいそうだ。


そろそろ肩の限界に達した時、俺は優奈の手をそっと解いた。