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かくして翌日。


俺は受話器を持って神崎家へ電話をかけていた。


隣には仁王立ちをしている優奈がいるので、逃げ道はない。


本当なら電話とかも苦手だから嫌なのだけれど、そんなことを言えば優奈からどんな罵声が飛んでくるかわからなかった。


『もしもし?』


聞いたことのある女性の声が受話器から聞こえた瞬間、俺はピンッとミーヤキャット並に背筋を伸ばしていた。


「あ、あの大木と申しますが、流星君はいらっしゃいますか?」


声が裏返り、かなり気持ち悪い裏声になる。


しかも神崎のことを『流星君』などと呼んだ瞬間、気分の悪さがせり上がって来た。


『あらあら大木さんこんにちは。少々お待ちくださいね』


1度会った事があるからか、途端に気さくな口調になったお手伝いさん。


電話はその直後エリーゼのためにが流れ始めて、俺はひとまずホッと息を吐きだした。


第一関門突破といったところだ。


世の中には電話でもメールでも簡単にこなす人がいるけれど、どうしてそんなことができるのか不思議でならない。


俺は額に滲んだ汗を手の甲でぬぐい取った。


優奈は不思議そうな顔をして俺を見つめている。


『ハジメか!?』


音楽が途切れた瞬間、電話から針が付きだされたのかと思った。


それくらいの大声に顔をしかめ、受話器を遠ざける。


昨日から耳の奥がキンキンしてばっかりだ。