「今電話してきてよ!」


「今って、もう夜だぞ? 相手の家に迷惑だろ」


そう言うと、優奈が急に眉を寄せて怪訝そうな目をこちらへ向けて来た。


なにかをいぶかしんでいるような様子だ。


「別に家の電話じゃなくていいじゃん。スマホにかけなよ」


優奈の言葉に俺は「あぁ~」と呟いて、空中へ視線を投げかけた。


「もしかしてお兄ちゃん、流ちゃんの番号知らないとか?」


「あぁ……うん。知らない」


これは隠し通す事はできなさそうなので、俺は素直に頷くことにした。


同時に優奈が大きな目を更に見開き、今にも眼球が零れ落ちてしまいそうになった。


「なんで!!?」


鼓膜をつんざく声に目の前がチカチカする。


声で脳味噌が直接揺さぶられたのは初めての経験だ。


「なんでって言われても……そういうタイミングがなかったからかなぁ……?」


もう、それしか答えようがなかった。


元々俺と神崎は仲良くないし、会話した事もない。


この夏休みに入って急速に近い存在になっていたけれど、お互いに番号交換をしようという話になったことはなかった。


それもこれも、あいつが持ち込んだ《神崎邸、秘密の扉大作戦》に気を取られていたからだ。


「もう! 信じらんない! 友達だったらすぐに番号交換くらいするでしょ!」


優奈はその場に仁王立ちになって俺を睨み付けて来る。


そうか。


そういうもんなのか?