神崎が「始めようか」と言ってから何時間経っただろうか?


いや、実際にはほんの数分しか経っていないかもいれない。


けれど、ビデオカメラを持つ手はプルプルと小刻みに振るえ、ジッと扉を見続ける目は水分を失っていた。


俺は大きく息を吐き出して、ついにその手を下ろした。


カメラには埃臭い廊下が映る。


「この家って、どうやって探し出したんだ?」


気分を紛らわせるために質問をしてみた。


「ん? 引っ越す前までこの辺りに住んでたんだ。小学校の頃まで、この空家は秘密基地だった」


「へぇ」


なるほど。


それなら納得だ。


しかし、俺の手はもう限界だった。


「もう無理だ」


はぁーっと大きく息を吐き出して神崎へカメラを突きつける。


音声や画像は後で編集すれば平気だ。


動画も同じ物をツギハギにすればいいのだけれど、地下室に入って出て来るまでの時間を考えるとある程度の長さは欲しかった。


「なんだ、もう交代か?」


俺の後ろで胡坐をかいて座り、どこから持ってきてのか、シミの付いたボロボロのエロ本を読んでいた神崎が、顔を上げて言った。


「三脚もないのに同じ場所を撮り続けるなんて無茶なんだよ」


と、文句を言いながらカメラを神崎へ渡す。


持っていた方の手がだるい。


「無茶でもなんでも、やらなきゃ始まらない」


ニッと笑ってそう言い、立ち上がる。


今まで神崎が座っていた場所だけ埃がキレイに取れている。


見ると、当然神崎のオシリは真っ白だった。