周りの様子を観察しながら歩いていた俺は、目の前の神崎が立ち止まった事に気付かなかった。


「わっ！？」


俺は、当たり前のように神崎の背中にぶつかり、バランスを崩す。


いつもなら、すぐに体勢を立て直すのだが、足元のホコリと、雨で濡れた靴がそれを邪魔した。


「うわっ！？」


ツルンっと、バナナの皮のごとく見事に滑り、ホコリとネズミの糞まみれの床にしりもちをついてしまった。


尾骶骨をモロに打ち付けた俺は、その場で顔を真っ赤にして悶絶する。


その時、ようやく神崎が振り向き、一言いった。


「ハジメ、見てみろ」


「……何をだよ」


神崎に支えられながら、何とか立ち上がる。


少し体を動かしただけで尻が痛んで顔をしかめた。


「あそこだ」


神崎が指を指した先にあったのは……。


「似てるだろ？」


その言葉に、俺は何度も頷く。


確かに似ている。


神崎低にある、あの部屋のドアと、そっくりだ。


目の前にある扉を見て、神崎が考えていることがようやくつかめた。


ここで、監視カメラの偽の映像を録画するつもりなのだ。