「死に別れだよ。俺が十歳の頃に本当のオヤジは病死した」

「あ、そうなんだ」


また、言葉が出てこなくてもどかしい。


下唇をかんで俯く。


もしかしたら、神崎がしばらく学校にこなかったのは再婚が原因かもしれない。


引っ越しとか、新生活とか、色々大変なことは理解できる……と、思う。


そう思い、出来事を自分に置き換えてみる。


俺の父親は六年前に死んでいて、女手一つで育ててくれていた母親。


きっと、普通の家庭より苦しかったに違いない。


世間の風当たりも厳しかっただろう。


毎日仕事をしている母親の帰りを待っている間、どれだけ寂しい思いをするだろう。


それでも、懸命に母子二人で生き抜いてきたのだ。


そこへ、突然きまった 再婚。


しかも相手は大豪邸の持ち主で、貧しい生活を知らない奴だ。


金さえあれば何でも手に入る、なんて思っていて社会悪になりかねない男。そんな男に、母親を奪われたのだ。


きっと金で釣ったに違いない。