共働きの大木家では、食事はいつも優奈と俺の二人きりだった。


なので、暖かい家族団らんに憧れる気持ちはよくわかる。


だけど……だからって、呼ぶ相手がこいつか。


そう思うと、何だか悲しくなってくる。


どうせなら、料理が得意で家庭的な女の子に来てほしい。


毎日家に来てくれて、『はい、あ~ん』なんて食べさせてくれて……。


「はい、あ~ん」


「あ~ん……」


口をポカンと開けて、夢見心地のまま、差し出されるパンをかじる。


……ん?


「何すんだよっ!!」


「だって、『あ~んして』って顔に書いてあったぞ」


「だからってお前がするなよ、お前がっ!!」


「なんだよ、我侭な奴だな。誰に食べさせてもらおうが同じだろ」


同じなわけがねぇだろ。


その時、「うわ、お兄ちゃんこんなの読んでるの?」と、優奈が単行本を見て眉を寄せた。


ホラーものが大の苦手な優奈は、その表紙だけでイヤイヤと首を振っている。


「あぁ、有名な映画のだし気になって」


と、咄嗟の言い訳。


「その本なら俺も持ってる。特に最後の方の、202ページには驚いた」