「おぉ、読書にはげんでますな」


俺の部屋に、藍色のTシャツに黒いズボン姿で神崎が現れたのは、1時間後のことだった。


その横には、いつものように香ばしい匂いのパンを三人分持った優奈が立っている。


「お前、来たのか」


「一言目からキッツイねぇ」


「私が呼んだのよ」


言いながら、優奈がさっそくパンにジャムを塗りたくる。


「呼んだって……どうやって?」


「お兄ちゃんのクラス名簿から、電話番号を探して」


ケロッとした表情の優奈と、何も考えていないような顔の神崎を交互に見る。


俺の学校では自分を合わせて前後3人の番号しか記載しないようになっているのだけれど、大木の「お」の次が神崎の「か」だから、電話番号もバッチリ載っている。


しかも、隣り合った状態でだ。


俺は自分の苗字まで憎みそうになり、気を取り直して優奈と神崎を見た。


2人とも楽しそうに無駄話をしている。


いつからこんなに仲良くなったんだ?


しかも、優奈の方が神崎の事を気にしていて、構ってほしそうな態度だ。


「いやぁ、まさか心配して電話くれるなんて思わなかったな」


「だって、いつも三人で食べてるじゃない。ダメなのよこういうの、一人でもかけたらさ」