家の中にいると優奈が帰ってくるので、俺たちは場所を変えて河川敷にいた。
芝生が敷き詰められた場所に、新しい木製のベンチが設置されていて、丁度木陰になるその場所に俺と神崎は座った。


ベンチの後ろにあるのは大きな柳の木で、風が吹くたびに長い髪を揺らす女のような影が見られた。


あまりの心地よさに、俺は数秒目を閉じる。


見えているものが見えなくなると、肌と聴覚が敏感になる。


水の音、風の感覚、虫の声。


それらから黄緑色をした芝生や小さな川の情景がどんどん流れ込んでくる。


「気持ちいいな」


その声で目を開けると、神崎は両手をう~んと伸ばして、夏の木陰の涼しさを満喫するように笑った。


夏が似合う、爽やかな笑顔だ。


この時はじめて、こいつがモテる理由がわかった気がした。


「で、お前はまたあの部屋に入るつもりなんだろう?」


「あぁ、そうだな」


「問題は山積みだぞ?」


今回は、優奈の力を借りないらしいし、神崎の両親だって、そんなに都合よく家を空けることはないだろう。


けれど、神崎は爽やかな笑顔を崩すことなく「だから面白いんだ」と、言った。

俺には、残念ながらその面白さがわからない。
好奇心はあるけれど、行動を起こすほど強いものではない。
きっと、俺と神崎では冒険心の方に大きな違いがあるのだろう。
「小学一年生の問題をやりたいと思うか?」