「あぁ。あの部屋で俺を押しただろ」


懐中電灯一つで、部屋に入った時。


こいつがふざけて、俺の目の前にオモアディオス突き出してきた。


だから、俺は『やめろよ!』と言って神崎を突き飛ばしたのだ。


確か、神崎は後ろへ手をついたハズだ。


「まぁ、その時はただ違和感があっただけだった。けど、その後ダンボールを元に戻す時、足元で確かに違う音が聞こえた」


話を聞きながら俺は、懐中電灯の光に照らされながら、ボーッと突っ立っていた神崎を思い出す。


そうか、あの時からすでに、何かがあると感じていたわけだ。


「どうして、その時に確認しなかった?」


「できるわけないだろ? ハジメがライトを持って出てくんだから」


そう言われると、何も反論は出来ない。


俺は軽く舌打をして、麦茶を飲み干した。


目の前にいる神崎の、黒い髪と黒いTシャツと黒いズボンが、やけに暑苦しく見えてくる。


大男の黒ずくめは、まるで動物園にいる熊のようだ。


「ちゃんとした確認ができてないなら、地下室なんか存在しないかもしれないな」


「あぁ、だけど存在する可能性も同じくらいにある」


「神崎、お前の言いたいことはよくわかる」


俺は物知り顔でうんうんと頷いて見せた。


途端に神崎の目が輝き始める。


「本当か?」