結局、油性マジックを普通の石鹸で洗い流すには限界があった。


所々黒い部分の残った額をさすりながら、俺は目の前の神崎に話しかける。


「で、さっきの続きだけど」


その言葉に驚いたように、神崎が目を見開く。


まさか、俺が自分から話をほじくり返すとは考えてもみなかったのだろう。


「先に言っとく、その話を聞いたからって、俺は手助けをするとは限らないぞ」


期待まじりの表情で俺を見てくる神崎に、クギをさしておく。


「あぁ、わかった」


「で、話は?」


「その前に、ちょっとコレを聞いてくれ」


そう言うと、神崎はコップを二度、コンコンと叩いた。


高めの、涼しげな音がなる。


続けて、テーブルを二度叩く。


今度は木製の、さっきより遥かに低い音がなる。


「どう思う?」


「は?」


「この音の違いだよ」


「叩くものが違うんだから、音が違うのは当たり前だろ」


「そ。だけど、同じものを叩いたら?」


「音も同じ」


「だろ? 普通そうだよな」


神崎は自分だけ納得したように何度か頷き、「やっぱり、おかしい」と呟きはじめる。