神崎らしくない行動だ。


自分の考え一つで人を巻き込み、夏の太陽のように突き抜けたこいつが、今一番『微妙』な態度をとっている。


「実はな……」


細く目を開け、重い口を押し開ける、といった感じで神崎が話しはじめた。


「あの部屋のことで、まだ気になってる事がある」


「部屋って、秘密の部屋?」


「そうだ」


「何だよ、一週間前に入ったばかりだろ」


と、俺はあからまさに嫌そうな声を上げる。


あの部屋へ入って、隠されていたものを確認した。


それですべて終ったじゃないか。


今更なにが気になるっていうんだよ。


しかし、俺の考えとは裏腹に、神崎はシッと人差し指を口元に押し当てて『静かに』の合図を出した。


な、なんだ? 


思わず、部屋の中を見回す。


けれど、俺たち以外に誰もいるワケがない。


「やっぱり、おかしいだろあの部屋」


神崎が、小声で言う。


小声になる必要があるとは思えないが、俺もそれに合わせて「なにが?」と小声で聞き返す。


その言葉に、神崎が呆れたように大きなため息を吐き出した。


「ハジメ、お前はもう少し洞察力を養うべきだ」


「数学も出来ない洞察力もない、バカで悪かったな」


誰もそこまで言ってないが、自称気味に笑ってみせた。


「あのダンボールの山。常識的に考えて、答えはノーだ」


神崎は外人みたいに肩をすくめて首を左右に振って見せた。


「は? ノー?」


「あり得ないってことだ」