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夏の暑さはクーラーによって軽減される。


けれど、夏の問題集の難しさは、何によっても軽減されることはない。


いや、問題集の場合は季節は関係なかった。


俺は机に向かいながら、目の前の意味不明な数式にあくびをかみ殺す。


たった数十ページしかない問題集だが、その一ページには問題がギュウギュウ詰めに書かれている。


ジッと見ていると、焦点が合わなくなり数式と数式が重なりあってぼやけてくる。


つまり、ウトウトしてくる、ということだ。


口の端からヨダレが垂れて、首が時折カクンッと傾いては慌てて目を覚ます。


わざと面白くない本を読んだり、こんな風に自分の用量以上の計算式を目の前にしたり、何かをしながら寝る。


というのが一番快適な眠りにつけるものだ。


それに……。


眠さをこらえて、俺はベッドを占領している神崎に視線を移す。


結局、帰り損ねた神崎は今もまだここにいる。


そして、何故だか知らないが俺のベッドでくつろぎながらマンガを読んでいる。


「どうした?」


俺の視線に気付いた神崎が、顔を上げる。


「別に」


「宿題できたのか?」


「そんな簡単に出来るもんじゃないんだよ」


「簡単にって……一時間も机に座ってたら少しはできるだろ」


神崎の言葉に、俺は机の上の時計を確認する。


確かに、問題集を広げてから一時間経過している。