未だに女言葉で体をくねらせ続ける神崎に、「頼むから出てけ」と一言。


その言葉とほぼ同時に、玄関から優奈が遊びに出かける音が聞こえてきた。


敏感にその音に反応した神崎は「じゃ、帰るわ」と、異常なほど素直に立ち上がる。


まったく、こいつは……。


自分で『出て行け』と言っておきながら、俺は神崎の腕を掴む。


「なんだよ?」


キョトンとした顔で俺を見下ろす神崎を、思いっきり睨み付ける。


「怪しい」


「なにが?」


「お前が素直に帰るなんて怪しい、って言ったんだよ」


「ハジメが出てけって言ったろ?」


「お前は、人に言われて素直に従うような人間じゃないだろ」


そう言いながら、俺は神崎を更にきつく睨みつける。


神崎のわざとらしい笑顔が俺を見つめ返す。


しばらくの、沈黙。


緩い表情のままの神崎に、俺の中でプツンと何かが切れる音がした。


「お前はいつから優奈を狙うようになったんだよ!」


身長差など気にせず胸倉を掴み、神崎の体を壁に押し付ける。


一瞬、俺の指が強く首に食い込み「ぐえっ」という潰されたカエルのような声が聞こえた。


「ワタシ狙ってない、狙ってないアルよ」


少し咳き込んでから、両手をパタパタと振ってみせる。


そんな事をしても、視線が完全にあさっての方を向いていて、簡単に嘘だとバレている。