☆☆☆

いつものように朝食のパンを頬張りながら、目の前の大男を眺める。


最近では、俺の部屋でこいつと優奈と、三人でパンを食べる事に違和感がなくなってきてしまった。


「人間は飛べないよな」


今朝の妙な夢を思い出し、呟く。


「なぁに、お兄ちゃん」


優奈がイチゴジャムをこれでもか、とパンにぬりたくりながら首を傾げる。


俺はそんな妹の細くて白い腕を確認し、「人間は鳥じゃないから、やっぱり飛ぶなんて無理だ」と、自分に言い聞かせた。


優奈の場合は、フリルの服が天の羽衣に変わって飛び回っても、それはまた愛らしくて許せる。


けれど……。


俺は、また目の前の大男に視線をうつした。


こいつが空をフワフワ飛びまわっていたら、謎の巨大生命体として世界中は大混乱を起こすだろう。


だめだ。


こいつだけは、たとえ人類が飛べるようになったとしても、飛ばしてはだめだ。


「どうした?」


神崎を睨みつけるようにして見ていた俺に、当の本人が不思議そうに聞いてきた。


「別に」


「俺の顔に何かついてるか?」


「ついてるついてる」


「どこどこ?」


「額に、『肉』って」


「肉って……超有名漫画の主人公か。俺らの年代にしては古いぞ、ハジメ」
そう言われて、俺は「名作に時代は関係ない」と、笑う。