辺りは真暗だった。


両手でどこをすくいあげてみても闇、闇、闇。


その闇の中に時折聞こえるのは、罵声。


幼い俺を忌み嫌う連中からの、容赦ない言葉の攻撃。


嫌っているなら、どうしてほうっておいてくれなのだろう。


嫌いだからこそ、幾度も幾度も繰り返される攻撃。


その心の醜さは、この暗闇のように計り知れないはずだ。


「じゃんじゃじゃ~ん! お助けマン登場!」


そこで、この場の空気を全く読めていない、最もバカな子供が登場した。


そのバカな子供だけを照らし出すように、明るいスポットライトが当たる。


赤いマントを身につけ、プラスチック製の刀を両手に持っているのが見えた。


「もう大丈夫だぞ、ハジメ」


俺に背中を向けた状態で、そいつは言う。


なんだよお前、そんな変な格好して。


何がお助けマンだよ!


身勝手なこの男に、俺は怒りさえ覚える。


変なヤツが来たぞ。


あいつの仲間か?


当然、俺に対しての罵声は一気に大きく膨らんでいく。


ヒーローごっこがしたいなら、他の子としてろよ。


この状況がわからないのかよ。


更なる攻撃を恐れて、俺は後ずさりした。


「ハジメ、飛べ!」


そいつが叫ぶ。

は? 飛べ?


「早く!」


俺の左手が、闇の中で強く握られる。