我が家が『異常』だと気が付いたのは私『コレット・マージル』が6歳の時、お茶会に参加した時だ。
 お友達の令嬢が家族と仲良く話しているのを見て『家とは違う』と思った。
 マージル家は私と父と母と姉と4人、それに数人の使用人達と暮らしている。
 私が物心ついたころから我が家は姉である『ミラル・マージル』が可愛がられていた。
 姉とは2つ離れていて、姉は美人で人当たりも良く両親は姉を溺愛している。
 姉と比べて私は地味でまぁ、普通だと思う。
 お友達から言わせてもらえば『年齢よりは幼く見える』、『あのお姉さんと比べるのは可哀想』とありがた~い言葉を貰っている。
 私と姉の扱いは雲泥の差で私は普段は母屋ではなく離れに暮らしている。
 家族と話すのは食事の時ぐらいだけど、話の中心は姉で私はそれを黙って聞くか空気になっている。
 勿論、寂しいし私なりに勉強も頑張った。
 しかし、どう足掻いても姉には勝てなかった。
 私も『姉だから仕方ないか』と思っていた。
 しかし、そう考えていたのは6歳の時まで。
 おかしい、と感じてからは私はそのおかしさの原因は何なのか、を自分なりに調べてみた。
 と言っても離れから母屋の様子を双眼鏡で観察したり、学園での姉の様子を観察するぐらい。
 そして、違和感の原因が姉が『異常に好かれている』事に気づいた。
 姉は学園でも人気で姉の周りには複数の男性がいた。
 中には婚約者のいる男性もいてその相手である令嬢には私から謝っておいた。
 なんで、こんなに姉は好かれるのだろうか、と思い学園の図書館で調べた。
 たどりついた答えは姉は『魅了持ち』ではないか、と言う事だ。
 魅了は一種の洗脳魔法の1つで相手は問答無用で言いなりになってしまう。
 これが質が悪いのは相手の人格を変えてしまう事。
 その人の事しか考えられなくなり優秀だった人間はだんだんと成績が落ちていったり、他人の意見が聞けなくなったりとか弊害が起こる。
 最悪なのが婚約を破棄してトラブルになってしまう事。
 とある国である王太子が魅了持ちの女性に騙されて婚約者に一方的に婚約破棄を宣言した。
 婚約者はその国でも有力な公爵家の一人娘で公爵は大激怒。
 反乱を起こしその国は滅んでしまったらしい。
 それ以来、『魅了』はタブーとされている。
 これが厄介なのは魅了は生まれつき持っている、と言う事。
 もし、魅了持ちが生まれた場合は速やかに国に報告して、人里離れた修道院で一生を過ごさなければならない、と厳しい法律がある。
 それぐらい魅了持ちは危険なのだ。
 ただ姉が本当に魅了持ちなのかはわからないし、誤解だったら間違いなく私は家から追い出される。
 なので慎重に姉の様子を遠巻きに観察していたら姉がこの国の王太子様と親しく話しているのを見かけてしまった。
 普通は男爵家が王族に話しかけるのはもっての外だし、王太子様には婚約者の公爵令嬢がいる。
 しかも、その公爵令嬢は我が家の遠縁である。
 これは流石にマズイので私は匿名で手紙を出す事にした。
 宛先は『王立魔術院』、魔法に関する様々なトラブルを解決してくれる所だ。
 私は『ミラル・マジールが魅了持ちではないか、と言う事。王太子様と親しくしている事、他にも男爵令息達と仲良くしている事』を書いて家から離れたポストに投函した。
 それから一週間後、姉が校長室に呼び出された。
 校長室の近くを通った生徒によると姉の悲鳴とか喚き声が聞こえた、という。
 その日の夜に姉は帰って来る事は無く両親はお城に呼び出された。
 使用人達がザワザワしているのを見て私は結構冷静に見ていた。
 その翌日、学園に行くと今度は私が校長室に呼び出された。
 校長室に入ると校長先生ともう一人男性がいた。
「コレット・マージル男爵令嬢ですね?」
「はい、そうですが……」
「私は王立魔術院で調査官をしている『ジャニス・ヘバライト』と申します」
 ヘバライトと言えばこの国では有名な魔導士一族だ。
「実は貴女のお姉さんであるミラル・マージルが魅了持ちである、という匿名の報告がありまして昨日調べさせてもらいました」
「そうですか……」
「結論から言うと彼女は魅了持ちである事が判明しました。現在、ミラルは魔術院に身柄を拘束、ご両親もお城の方に拘束させてもらっています」
 私の読みは当たっていた。
「それで貴女に聞きたいのですが……、もしかして報告をしてくれたのは貴女ですか?」
「……そうです。余りにも姉が周りからチヤホヤされているのを見ておかしいと思ったので私なりに調べてみました」
 私は素直に言った。
「貴女の観察眼は素晴らしいですよ。手紙に書かれていた事はほぼ事実である事は確認しました。今後、ミラルに関わっていた人物は検査を行い魅了の程度を調べないといけません」
「因みに姉の様子は?」
「最初はキョトンとしていましたが魅了持ちと判明して今後の事を説明したらパニック状態になって泣き喚いていましたよ」
「当然だろうな。今までチヤホヤされていたのが当たり前だったのがタブーの力を使っていたのだからな」
 校長先生は溜め息を吐きながら言った。
「それでコレット、これからの事なんだが・・・・・・、多分マージル男爵家は取り潰しになる可能性が高い。そうなると・・・・・・」
「あぁ、大丈夫です。私としては実家とは縁を切りたい、と思っていたので」
 私がそうキッパリと宣言した。
「貴族の名誉が無くなるのだぞ? それでも良いのか?」
「心配してくださってありがとうございます。ですが、私は一人でなんでも出来る自信があります」
 これは本当の話で使用人達は姉にべったりで私が住む離れには近づかなかった。
 だから、ある程度の事を一人で出来る。
 それに、貴族社会には何にも未練が無い。
「私は平民になる覚悟はできております」
 そう言いきった。
「……君は強いね。マージル男爵も君の方を可愛がってあげれば違う未来があっただろうにね、残念だよ」
 その後も色々話して私は校長室を後にした。
 教室に戻るとクラスメイト達が私に寄って来た。
 そこで私はこう宣言した。
「皆様、我がマージル家は近いうちにお取り潰しになる事になりました。私は本日をもって退学する事になりました。今までお世話になりました」
 私はそう言ってカバンに教科書を入れて教室を出て行った。

 
 
 私はすぐに家へと戻り使用人達に説明した。
 姉が魅了持ちだった事、使用人達もかかっている可能性がある、と言う事、我が家は姉を隠蔽していた罪で取り潰しになる事を伝えた。
 勿論、みんな動揺していて私の話を信じられない顔をしていたが、その直後にお城の騎士がやって来て私に城に来るように、との王命が来た。
 全く、落ち着く暇もなく私はお城へと向かった。
 お城にやって来た私は一室に通され待っていると宰相様が入って来た。
「すまないね、国王様の代わりに私が対応させてもらう事になった」
「いえ、謝らなければならないのは私の方です」
「君が謝る必要はないだろう。どちらかと言えば被害者だと私は思うがね」
 机の上に書類が出された。
「正式な処分はまだだがマージル家の取り潰しは免れない、マージル家の土地や財産は王族管理となる」
「そうですか……」
 覚悟はしていた、やっぱりこうなるんだろうなぁ、て。
「マージル家で雇っていた使用人達は検査の後、別の貴族に雇ってもらえるように手配をしている」
「ありがとうございます」
「彼等も被害者だからね、勿論検査の結果次第だが君にも検査を受けてもらう事になる」
「勿論お受けいたします」
「それと、これは魅了持ちを報告してくれた礼として君に報奨金が出る事になっている」
「私にですか?」
「これは法律で決まっている事だし、公爵様が『家の娘が不幸にならずに済んだ!』と大変お喜びになっていたよ」
「ん? 不幸にならずに済んだ、と言う事は王太子様との婚約は続行になったんですか?」
「……王太子様は廃嫡される事になったよ。思っていたより重傷でね、国王様も苦渋の決断を下したよ。公には『急病』と発表されるがね」
 マジですか……。
 魅了の力、恐るべし。
「それじゃあ婚約は当然白紙と言う事になるんですか?」
「いや、第2王子が新たな王太子なられるから婚約は続行となる。あくまで『王太子』との婚約だからね」
 要は顔だけ変える、と言う事か。
 うん、やっぱり貴族社会は怖い。

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