――お休みの日、久しぶりに友人と待ち合わせをして、新宿に買い物に行った。
ブラブラとウィンドウショッピングをしていたら、目の前を見覚えのある女性が通り過ぎた。
ラメ入りの真紅のワンピース、黒いストッキングに赤いハイヒール。派手な格好で一際目だっていたその女性は、中居保の恋人、怜子だった。
彼女の隣には、五十歳はとうに過ぎた年配の男性が寄り添っている。
えっ?お店のお客さん?
それとも……愛人!?
見た目の先入観で、彼女をキャバ嬢だと決めつけていた私は、二人の動向を目を凝らして見る。
「どーしたのよ?雫?誰を見てるの?知り合い?」
学生時代の友人、持田真希《もちだまき》が、私に話しかけた。
「あっ……ごめん、ごめん。ちょっとね」
彼女と男性は仲良く腕を組み、時折鼻にかかった甘えた声で怜子は男性を『パパ』と呼び、二人は腕を絡ませ、人目も憚らずイチャイチャしている。
まるでご主人様に擦り寄る猫みたいだ。
やっぱり愛人だよね?
それにしても年の差、ありすぎるし。
彼はもしかしたら、彼女に弄ばれてるのかな?
妄想が風船のようにどんどん膨らみ、いつ破裂してもおかしくないくらい、頭の中はパニックを起こしている。
二人は高級ブランドショップで、彼女の洋服を仲良く選び、支払いは男性が財布からクレジットカードを差し出した。
「ありがとうパパ!大好き!」
彼女は男性に抱き着き、店員の前で恥ずかしげもなく頰にキスをする。
「怜子、よさないか……」
まさしく……
これは、愛人だよ。
中居保は彼女に二股されてることに、気付いてるのかな?
彼も彼女もどっちもどっちだ。
彼はそれを知った上で、彼女のヒモになってるの!?
もしも彼がこのことを知らないで、彼女を自分の恋人だと勘違いしているのなら、それはそれで男として不幸だよね。
いや、自業自得なのかな?
入院している病院の看護師にセクハラをする極悪非道な男だ。本来ならば、告訴してもいいくらい。
彼女の浮気は見なかったことにしよう。
どうせ彼と私も、ただの患者と看護師なのだから。他人の恋愛に首を突っ込む必要はない。
隣にいた真希が洋服やバッグを選びながら、色々話し掛けてきたけど、私の視線は怜子に釘付けで上の空だった。
洋服を選んでいるのに、脳裏にはあいつの顔がふわふわと浮かぶ。
どうして休みの日まで、憎らしいあいつの顔が浮かぶのよ。
彼にキスをされたから?
だから、残像のようにあいつの顔がちらつくんだ。
◇
翌日、出勤した私はいつものように担当の病室を巡回した。
病室の窓際のベッドに座る彼の顔を見たら、昨日の怜子を思いだした。
「おはよう!雫」
彼は馴れ馴れしく私に、声を掛けてくる。しかもハイテンションだ。なにがそんなに楽しいんだか。君は彼女に浮気されてるんだよ。
「おはようございます」
「昨日休みだったんだな。超、寂しかったよ。なぁ吾郎!」
彼は隣の吾郎に同意を求める。
「え、ええ、まぁ……」
吾郎は困ったように、返事を濁す。
「昨日、デートだったのか?」
「え?」
病室で何を聞いてるの。
そんなこと答えるわけないじゃない。
意味わかんないよ。
真っ直ぐ向けられた大きな瞳。
吸い込まれそうなくらい、澄んだ瞳。
憎らしいのに、なんて綺麗な瞳なんだろう。
飛び魚のように、ピョンピョンと鼓動が跳ねる。まるで真夏の太陽に照りつけられているように、顔がカーッと火照る。
私はあの目が……苦手。
美しすぎる、あの目が……苦手。
ブラブラとウィンドウショッピングをしていたら、目の前を見覚えのある女性が通り過ぎた。
ラメ入りの真紅のワンピース、黒いストッキングに赤いハイヒール。派手な格好で一際目だっていたその女性は、中居保の恋人、怜子だった。
彼女の隣には、五十歳はとうに過ぎた年配の男性が寄り添っている。
えっ?お店のお客さん?
それとも……愛人!?
見た目の先入観で、彼女をキャバ嬢だと決めつけていた私は、二人の動向を目を凝らして見る。
「どーしたのよ?雫?誰を見てるの?知り合い?」
学生時代の友人、持田真希《もちだまき》が、私に話しかけた。
「あっ……ごめん、ごめん。ちょっとね」
彼女と男性は仲良く腕を組み、時折鼻にかかった甘えた声で怜子は男性を『パパ』と呼び、二人は腕を絡ませ、人目も憚らずイチャイチャしている。
まるでご主人様に擦り寄る猫みたいだ。
やっぱり愛人だよね?
それにしても年の差、ありすぎるし。
彼はもしかしたら、彼女に弄ばれてるのかな?
妄想が風船のようにどんどん膨らみ、いつ破裂してもおかしくないくらい、頭の中はパニックを起こしている。
二人は高級ブランドショップで、彼女の洋服を仲良く選び、支払いは男性が財布からクレジットカードを差し出した。
「ありがとうパパ!大好き!」
彼女は男性に抱き着き、店員の前で恥ずかしげもなく頰にキスをする。
「怜子、よさないか……」
まさしく……
これは、愛人だよ。
中居保は彼女に二股されてることに、気付いてるのかな?
彼も彼女もどっちもどっちだ。
彼はそれを知った上で、彼女のヒモになってるの!?
もしも彼がこのことを知らないで、彼女を自分の恋人だと勘違いしているのなら、それはそれで男として不幸だよね。
いや、自業自得なのかな?
入院している病院の看護師にセクハラをする極悪非道な男だ。本来ならば、告訴してもいいくらい。
彼女の浮気は見なかったことにしよう。
どうせ彼と私も、ただの患者と看護師なのだから。他人の恋愛に首を突っ込む必要はない。
隣にいた真希が洋服やバッグを選びながら、色々話し掛けてきたけど、私の視線は怜子に釘付けで上の空だった。
洋服を選んでいるのに、脳裏にはあいつの顔がふわふわと浮かぶ。
どうして休みの日まで、憎らしいあいつの顔が浮かぶのよ。
彼にキスをされたから?
だから、残像のようにあいつの顔がちらつくんだ。
◇
翌日、出勤した私はいつものように担当の病室を巡回した。
病室の窓際のベッドに座る彼の顔を見たら、昨日の怜子を思いだした。
「おはよう!雫」
彼は馴れ馴れしく私に、声を掛けてくる。しかもハイテンションだ。なにがそんなに楽しいんだか。君は彼女に浮気されてるんだよ。
「おはようございます」
「昨日休みだったんだな。超、寂しかったよ。なぁ吾郎!」
彼は隣の吾郎に同意を求める。
「え、ええ、まぁ……」
吾郎は困ったように、返事を濁す。
「昨日、デートだったのか?」
「え?」
病室で何を聞いてるの。
そんなこと答えるわけないじゃない。
意味わかんないよ。
真っ直ぐ向けられた大きな瞳。
吸い込まれそうなくらい、澄んだ瞳。
憎らしいのに、なんて綺麗な瞳なんだろう。
飛び魚のように、ピョンピョンと鼓動が跳ねる。まるで真夏の太陽に照りつけられているように、顔がカーッと火照る。
私はあの目が……苦手。
美しすぎる、あの目が……苦手。