はじめて会った日から、きみの笑顔が好きだった。

 顔をくちゃくちゃにして笑うきみがうれしくて、気がつくと同じように僕も笑っていたよね。

 その笑顔を消したのは僕。

 最後にトールに教えてもらえてよかったと思う。そうじゃなかったら、お互いに悲しいままだっただろうから。

 あの日、僕の人生のともしびが消える寸前、やっときみに会えた。
 泣きじゃくるきみに、本当なら白いアネモネのもうひとつの花言葉を伝えたかった。

 悲しむことなんてない。
 きみには新しい人生が待っている。希望を大切に生きていくのを遠くから見ている。

 そう、伝えたかったんだ。

 けれど、僕の口から出た言葉は、
『風花の笑顔が見たい』
 だったね。

 どこまできみを困らせるんだろう、と自分でも思う。

 けれど、どうしても伝えたかった。
 いつも笑っていた僕たちのラストにふさわしいと本気で思えたんだ。

 あごを震わせながら、きみは少しだけ口の端をあげて笑ってくれたよね。
 そんなきみのことを誇りに思うよ。
 ありがとう、僕の大切な人。

 しばらくは泣いていいけれど、いつか幸せになってほしい。

 やさしいきみだから、きっと罪悪感に苦しむだろう。何度もくじけてしまうだろう。

 そういうときは、白いアネモネを思い出して。
 きみが持つ希望の光が、何千倍にも輝くように遠くで見ているよ。

 目を閉じる一秒前、風花のうしろにいる大切な人たちが見えたんだ。

 母さん、犬神と友梨、そしてトール。
 母親にはたくさん迷惑や心配をかけた。どうか、長生きをしてください。
 犬神のぶっきらぼうなやさしさに救われたよ。部活、がんばってな。
 友梨はがんばりすぎるがんばり屋。サックスの演奏聴きたかったよ。

 そしてトール。
 最後にきちんと、文哉って呼びたかった。
 どうか母親のこと、そして風花のことを頼んだよ。

 真っ暗闇に落ちていく。間もなく命の火が消えるのを知っても怖くなんてなかった。

 それは、みんなの笑顔があるから。

 ありがとう、みんな。

 ありがとう、風花。

 今年もアネモネの花が咲いただろう?

 これからもアネモネは咲くよ。

 きみのために。


 きみの未来のために。