「と、とにかく、えっと……これは……あのぉ……わ、私達っていうか……みんなでって………」


普段、自分から発言なんてすること無い植木朋子(うえきともこ)が顔を真っ赤にして俺に何かを伝えようとしている。


「一体、お前らは何を企んでいる?」


「企んでるって侵害だな。ただ…俺達は先生の授業をちゃんと受けようかと思っただけ。」


顔を真っ赤にして黙ってしまった植木朋子の代わりにいつだってポーカーフェイスの工藤大輝(くどうだいき)が続けて言う。


「先生、辞めるんだって?職員室で教頭が電話で誰かに話してるのを聞いたって隣のクラスのやつが言ってた。」


「教頭が…。」


恐らく今、出張に出ている校長への報告か?


俺は俺が教師として勤めているこの学校を辞めようとしていた。


いや、教師そのものを辞めてしまおうと思っている。


荒れ果てたこの学校に赴任してきて、誰一人まともに授業を聞くこともなく過ぎてきた毎日。


ある時、俺は気付いたんだ。


教えることを諦めている自分に。


諦めた毎日をただ繰り返している事に。


ふと、もういいんじゃないかって。


こんな毎日もう終わらせてしまえばいいんじゃないかって。


何一つ変わらない、変えなかった毎日を俺は自ら終わらせようとしていた。


なのにーーー


最後の授業のつもりで向かった教室の戸を開けると、そこにはーーー


どうしようもないクズで馬鹿共たちが真面目に整列して座っていた。


いつもなら俺が教室に入ろうともまるで誰も気付いてないかのように席にも着かず好き勝手していたというのに。


そう、そんなとんでもない光景が俺の目に飛び込んできたんだ。