夜の八時半すぎに店に入ると、店内は少し騒がしい。お客さんが入っているわけではない。従業員がひそひそ話をしている。何事かきなるが、控室に引っ込んだ。その姿を見て同期のランがにたにたの笑い顔と赤くカラーで染め上げた髪を引っさげて近づいてくる。

ランは左手首に人差し指をなぞらせる。

「ケビンの彼女がまたやったらしいよ、リスカ」

「そうなんだ」

「何回目かよって感じだよな、まあ信じられない気持ちはわかるけれど、ホストとわかったうえで付き合ったなら、それなりの覚悟しろよな、毎回心配させるのに手首きられたんじゃたまったもんじゃないな」

ランはケビンに同情するようなこと言う。手首を切るまで追い詰められた彼女のことを一切、気に掛ける素振りはなかった。