ドライヤーで髪を乾かして、手首に軽く香水をつける。ネクタイは付けない。時間は八時を少し過ぎていた。サナが口を開いたのは、オレの支度がすんで立ち上がったときだった。

どこか不安そうな顔で言った。

「仕事にいくの?」

「ああ、少し遅くなったけどな」

ちょっと嫌みを含ませる。それから机の引き出しからスペアキーを取り出して、サナに手渡す。「なくすなよ」と、一言そえて。サナが理解したかはわからないけれど、オレはスペアキーを渡すことで、サナとの同棲を認めたつもりだった。今日、一日中サナといて、サナの人となりをオレはとても好意的に捉えることができたし、何よりも楽しかったのである。本当に生意気だと思うけれど