店から出たオレはすぐさまタクシーをとめて、運転手にサナの住所を告げる。タクシーの運転手はゆっくりと車を走らせた。

車内の中は沈黙。オレは窓をずっと見ていた。流れる景色が目に入るが風景はおぼろげに見えている。極度の緊張で胃が気持ち悪い。体の震えも止まらない。タクシーの運転手が冷房利きすぎですかと尋ねてきたのでオレは大丈夫ですとこたえる。

タクシーの運転手から見たら怪しい人物と思われているかも知れないと思ってオレは一言だけつけたした。

「彼女と喧嘩しまして、謝りにいくんです」

「そりゃあ大変だ」

こう言っておけばタクシーの運転手も安心するだろう。下手に怪しまれて通報されても困る。オレはサナに刺される覚悟もしているのだから。