夜の八時近くになると、歓楽街の住人のそのほとんどが活動をはじめる。脇道に入るたびにサナは色んな人を目にしていた。酔っ払いの男の集団。同業者の派手なホスト。化粧の濃いホステス。オレにとっては毎日目にしている光景でもサナには少し刺激が強いようだった。

「怖い」とサナが小さく呟いた。そしてオレの腕に抱きつく。しがみつくという方が正しいかもしれない。

「オレがいるから大丈夫」

サナを安心させようとして言ったが、サナは信用しないようで酷い事を言う。

「アイルってガタイ良くないじゃん、絡まれたら置いて逃げそうだよ」

憎まれ口だとわかっているけれど、置いてにげるとは腹に据えかねる。オレはしがみつくサナを振りほどこうと腕をジタバタと動かした。

「ごめんなさい、冗談だよ」

サナはジタバタする腕に必死になってしがみつくのだった。