「あー今なら、寛大な処分が待ってるぞー」
ディーノの声はのんびりとしていて、横で何かの作業をしながら、ついでに話しているような雰囲気だった。
「早くー、出てきなさーい」
キュルキュルという、マイクノイズが響く。
この人たちにしても、本当にやる気があるんだろうか。
「あー、今からー、正門入り口を開けるー。大人しくー床に伏せとけよー」
拡声器のスイッチが切れた。
俺たちが集まっている場所から、予告された正門まで200mはある。
自動で動くことが許されなくなっていた扉が、音を立ててゆっくりと開き始めた。
徐々に広がっていく視界の向こうに、機動ロボ数体に囲まれた、ディーノとイヴァの姿がある。
やる気の全くなさ気なディーノに比べて、彼女は真面目だ。
「大人しく床に伏せなさい!」
イヴァが、手にしていた銃口を上に向ける。
あれは、多分鎮静弾。
「ルーシー! こっちに来て!」
機動ロボが、一斉に真横に広がった。
俺たちの間には、何もない緑の芝生が広がっている。
ゆっくりと歩き出した彼女の後ろから、手袋をしながら歩くディーノが続く。
「ルーシー、こっちに来なさい」
彼女の呼びかけに、ルーシーは激しく首を横に振った。
「どうしたのルーシー、あなたを助けに来たのよ?」
ルーシーの両手が、俺の腕にしがみついた。
それを見たイヴァは、眉間にしわをよせ、歩く速度を速める。
その彼女の足の動きを観察していた俺は、立ち上がった。
ジャンの元に駆け寄る。
ジャンの視線はまっすぐに、迫る彼らを見すえていた。
「名案が浮かんだか?」
「まぁね」
ニールが、操作パッドを差し出した。
ここに接続されている全てが、いま使える全てだ。
俺の指先が、高速で目的のものを探す。
「あった!」
「いつでもいいぞ」
ジャンが、にやりと笑う。
「こっちの準備も万端だ」
「そうだろうと思ったよ!」
俺は、探していた装置の起動スイッチを押した。
とたんに、競技場の床がぐらぐらと動き出す。
「なに? なにが起こってるの?」
イヴァが叫んだ。
小刻みに揺れ動いた床面が、中央で二つに割れた。
そこから、新たな床面が上がってくる。
「セットを入れかえた」
俺の指先は動き続ける。
「俺たちが考えて、必死で作り上げたやつだ。こいつのことは、今でも覚えているだろ?」
人工芝に覆われた、緑の壁が出現する。
「俺たちが作って、コンクールに初めて入選した巨大迷路だ、忘れてないよな?」
「当然だ」
ジャンが、ハンドリングバイクにまたがった。
「お前はどうする?」
「俺は後ろにいる」
ジャンはうなずくと、空高く舞い上がった。
あの位置からだと、全体もよく見えるだろう。
彼の機体から送られてくるフィールドの全体映像を、キャンビーと自分のバイクにつなぐ。
ルーシー? ルーシーは?
彼女はニールの横で、じっと彼の操作を見つめていた。
ニールの扱う物量はハンパない。
たくさんの機材やコードに囲まれた彼の周囲だけが、資材置き場のようだ。
他のスクールの仲間たちも、それぞれのバイクにまたがった。
「怖がるな、俺たちの一番の武器は、俺たち自身だ」
ジャンの声がマイクから聞こえる。
「お前ら、いつだってここのロボットで遊んでただろ。その成果を見せてやれ」
バイクの無線から、ニールのプログラムダウンロード完了の合図が鳴った。
「行くぞ!」
仲間たちのバイクが、一斉に巨大迷路の中へ入っていく。
「全く、往生際が悪いとは、こういうことを言うんだ」
ディーノの声が、拡声器を通して鼓膜に届く。
「イヴァ、気をつけろ」
そう言われた彼女は、舌打ちをしてフィールドの外に出た。
俺たちの作戦は単純だ。
キャンプベースの機動隊ロボといえども、絶対に逆らえない大原則『人間を傷つけてはいけない』、それを逆手にとって、自分たちの体を体当たりさせ、機能を停止させる。
ただ、今回の機体はスクールのおもちゃみたいな警備ロボとは違う、禁則の緩い戦闘用ロボが相手だ。
一度捕まればお終いの、鬼ごっこが始まる。
ハンドリングバイクに乗った仲間たちが、迷路の中に潜んでいた。
ジャンから送られる画像を元に、機動ロボに体当たりをくり返す。
ニールから送られてくる指示で、機動ロボ一体に対し、2、3人が取り囲む。
ニールの作った回避プログラムは、機動ロボの可動域を計算したもので、チームの誰かのバイクがその捕獲域に入れば、他の仲間は近寄れないようになっていた。
くるくると入れ替わる仲間にロボットが気をとられているうちに、空から急降下して停止させる奴らもいる。
「ディーノ、迷路の地図はまだ?」
「いま送ってるよ」
彼らのやり取りが、競技場に響く。
これは、俺たちにワザと聞かせているんだ。
俺は、ニール一人ではサポートしきれないフィールドの、残りの半分を担当する。
「全データ、転送完了だ」
機動ロボの表示ランプが、チカリと光った。
動きが一段と加速する。
ニールが細工したスクールの警備ロボが、自走して機動ロボの足元にまとわりつく。
それを踏みつけた機動ロボの一体が、大きく転倒した。
ディーノの声はのんびりとしていて、横で何かの作業をしながら、ついでに話しているような雰囲気だった。
「早くー、出てきなさーい」
キュルキュルという、マイクノイズが響く。
この人たちにしても、本当にやる気があるんだろうか。
「あー、今からー、正門入り口を開けるー。大人しくー床に伏せとけよー」
拡声器のスイッチが切れた。
俺たちが集まっている場所から、予告された正門まで200mはある。
自動で動くことが許されなくなっていた扉が、音を立ててゆっくりと開き始めた。
徐々に広がっていく視界の向こうに、機動ロボ数体に囲まれた、ディーノとイヴァの姿がある。
やる気の全くなさ気なディーノに比べて、彼女は真面目だ。
「大人しく床に伏せなさい!」
イヴァが、手にしていた銃口を上に向ける。
あれは、多分鎮静弾。
「ルーシー! こっちに来て!」
機動ロボが、一斉に真横に広がった。
俺たちの間には、何もない緑の芝生が広がっている。
ゆっくりと歩き出した彼女の後ろから、手袋をしながら歩くディーノが続く。
「ルーシー、こっちに来なさい」
彼女の呼びかけに、ルーシーは激しく首を横に振った。
「どうしたのルーシー、あなたを助けに来たのよ?」
ルーシーの両手が、俺の腕にしがみついた。
それを見たイヴァは、眉間にしわをよせ、歩く速度を速める。
その彼女の足の動きを観察していた俺は、立ち上がった。
ジャンの元に駆け寄る。
ジャンの視線はまっすぐに、迫る彼らを見すえていた。
「名案が浮かんだか?」
「まぁね」
ニールが、操作パッドを差し出した。
ここに接続されている全てが、いま使える全てだ。
俺の指先が、高速で目的のものを探す。
「あった!」
「いつでもいいぞ」
ジャンが、にやりと笑う。
「こっちの準備も万端だ」
「そうだろうと思ったよ!」
俺は、探していた装置の起動スイッチを押した。
とたんに、競技場の床がぐらぐらと動き出す。
「なに? なにが起こってるの?」
イヴァが叫んだ。
小刻みに揺れ動いた床面が、中央で二つに割れた。
そこから、新たな床面が上がってくる。
「セットを入れかえた」
俺の指先は動き続ける。
「俺たちが考えて、必死で作り上げたやつだ。こいつのことは、今でも覚えているだろ?」
人工芝に覆われた、緑の壁が出現する。
「俺たちが作って、コンクールに初めて入選した巨大迷路だ、忘れてないよな?」
「当然だ」
ジャンが、ハンドリングバイクにまたがった。
「お前はどうする?」
「俺は後ろにいる」
ジャンはうなずくと、空高く舞い上がった。
あの位置からだと、全体もよく見えるだろう。
彼の機体から送られてくるフィールドの全体映像を、キャンビーと自分のバイクにつなぐ。
ルーシー? ルーシーは?
彼女はニールの横で、じっと彼の操作を見つめていた。
ニールの扱う物量はハンパない。
たくさんの機材やコードに囲まれた彼の周囲だけが、資材置き場のようだ。
他のスクールの仲間たちも、それぞれのバイクにまたがった。
「怖がるな、俺たちの一番の武器は、俺たち自身だ」
ジャンの声がマイクから聞こえる。
「お前ら、いつだってここのロボットで遊んでただろ。その成果を見せてやれ」
バイクの無線から、ニールのプログラムダウンロード完了の合図が鳴った。
「行くぞ!」
仲間たちのバイクが、一斉に巨大迷路の中へ入っていく。
「全く、往生際が悪いとは、こういうことを言うんだ」
ディーノの声が、拡声器を通して鼓膜に届く。
「イヴァ、気をつけろ」
そう言われた彼女は、舌打ちをしてフィールドの外に出た。
俺たちの作戦は単純だ。
キャンプベースの機動隊ロボといえども、絶対に逆らえない大原則『人間を傷つけてはいけない』、それを逆手にとって、自分たちの体を体当たりさせ、機能を停止させる。
ただ、今回の機体はスクールのおもちゃみたいな警備ロボとは違う、禁則の緩い戦闘用ロボが相手だ。
一度捕まればお終いの、鬼ごっこが始まる。
ハンドリングバイクに乗った仲間たちが、迷路の中に潜んでいた。
ジャンから送られる画像を元に、機動ロボに体当たりをくり返す。
ニールから送られてくる指示で、機動ロボ一体に対し、2、3人が取り囲む。
ニールの作った回避プログラムは、機動ロボの可動域を計算したもので、チームの誰かのバイクがその捕獲域に入れば、他の仲間は近寄れないようになっていた。
くるくると入れ替わる仲間にロボットが気をとられているうちに、空から急降下して停止させる奴らもいる。
「ディーノ、迷路の地図はまだ?」
「いま送ってるよ」
彼らのやり取りが、競技場に響く。
これは、俺たちにワザと聞かせているんだ。
俺は、ニール一人ではサポートしきれないフィールドの、残りの半分を担当する。
「全データ、転送完了だ」
機動ロボの表示ランプが、チカリと光った。
動きが一段と加速する。
ニールが細工したスクールの警備ロボが、自走して機動ロボの足元にまとわりつく。
それを踏みつけた機動ロボの一体が、大きく転倒した。