そうやって迎えた本番、定期的に開かれる校内の対抗戦とあって、ギャラリーの数はさほど多くはない。

だけど、参加者とトーナメント戦の順位によって、自分の成績に加点されるとあって、出場チームのやる気は本物だ。

「お前らが出るって聞いてな、審判役になってやったよ」

ジャンがチームの様子を見に来る。

今回の出場チームは、6チーム。

参加登録して本戦に出場するだけでも、加点があるからありがたい。

ジャンの視線は、自然とルーシーに向かう。

「コイツも乗れるようになったのか?」

「まぁね、楽しみに見ててよ」

俺がそう言うと、彼は笑った。

「せいぜい、泣かせないようにしろよ」

チームの出場は2戦目、カズコとニールは対戦相手になるかもしれないチームの戦力分析と戦略を、熱心に語り合っている。

「ルーシーは、困ったらヘラルドに機体の操縦を任せるんだよ」

レオンは最後に、彼女にそう声をかける。

「たぶん、すぐにヘラルドが操ってるってバレるだろうけど、そしたらルーシーに意地悪してくることも、少なくなるから」

レオンの言葉を、どれだけ理解しているのかは分からないが、彼女は緊張した面持ちで、力強くうなずいた。

試合終了のホイッスル。

荒れたフィールドが、新しいものと入れ替わる。

「よし、スタンバイだ」

俺たちは、定位置についた。

前衛にニールとレオン、後衛に俺とルーシーがいて、最後尾に司令塔としてのカズコがいる。

相手チームは攻撃に3機、守備に2機の配置だ。

無理もない、ルーシーがほとんど役に立たないであろうことは、相手側にも容易に想像できる。

攻撃により多くの配分を与える方が、今戦は有利だ。

試合開始のホイッスルが鳴った。

フィールドに得点源となるクラッシュボールが現れた瞬間、ニールとレオンの機体が動く。

すぐに、相手の攻撃機を一体ずつ封じ込めた。

そこをすり抜けた相手チームの1体が、フィールド上に置かれたボールへ向かう。

カズコの機体から遊離した子機5体のうちの1体が、先にボールをつかんで浮き上がった。

しかし、機動力の高い、人間のライドしていない子機での得点は認められていない。

ボールをつかんだカズコの子機は、30秒以内に誰かにパスしなければ、クラッシュボールが爆発する。

「ルーシー!」

相手チームからノーマークのルーシーに、ボールが渡った。

彼女がそれを受け取った瞬間、俺はシンクロ率を95%にまで引き上げる。

まっすぐに動くゴールエリアへと向かう彼女の機体を、俺は正確にサポートする。

相手チームの隙をついて、先ず1ポイントを稼いだ。

「やった!」

嬉しそうな彼女の顔に、俺はシンクロ率を引き下げる。

ここからが本番だ。

ニールとレオンは、ゴールエリアの動きに合わせて、得点しやすいポジションを確保するよう、相手の攻撃をかわしながらその位置を保っている。

カズコは子機を駆使し、ボールを拾って、その時々で得点しやすいポジションにいる仲間に、パスを渡す役割だ。

俺は空いている空間に割り込み、パワーで劣る子機からのパスを、ニールたちに繋ぐ。

子機からのパスを受け取った俺は、ボールサインをチェックする。

それは赤の点灯からの点滅を始めていた。

最初につかまれてからの20秒を迎え、残り5秒の合図だ。

それを俺は、相手チームの機体に向かって投げつける。

パスカットに入ろうと、レオンとの間で邪魔をしていた相手機が、さっと身を引いた。

クラッシュボールは爆発し、レオンの機体に衝撃を与える。

「レオン、ごめん!」

「悪い、俺もちゃんと見てなかった」

フィールド中央に現れた新たなボールを、最初につかんだのは相手チームの機体だった。

ゴールエリアまでのルートを確保すべく、相手チームの機体が、俺たちの動きを封じにかかる。

ルーシーは全体の早い流れに、やはりついていけずにいた。

どう動いていいのか分からない彼女の機体が、ふらふらと宙をさまよう。

2体に挟まれて動けない俺は、ルーシーの機体を動かした。

カズコの子機が、ゴールエリアの守備にまわる。

相手チームがゴールへ向かって投げたボールを、カズコは上手くたたき落とした。

青のボールが、黄色に変わる。

残り20秒の合図だ。

こぼれ落ちたボールをとりに、ニールの機体が走る。

俺は直ぐさま、ルーシーの機体がニールの邪魔にならないよう、ゴールエリアから遠ざける。

その瞬間、彼女の機体がぐらりと傾いた。

「あれ、どうした?」

俺は、ルーシーの機体の出力をあげた。

全力で上空に舞い上がるはずのそれは、指示を全く受け付けず、ふらふらと失速する。

ボールを取りに走ったニールの機体と、ルーシーの機体が激しく接触した。

その瞬間に、相手側にボールが奪われる。

コントロールを失った機体は、ニールを巻き込んで地に落ちた。

このゲームに、試合の中断など存在しない。

ゴールを決められたその瞬間、クラッシュボールは爆発し、次のボールが現れる。

墜落した2機に注意を奪われている間に、再びゴールを決められた。

「ルーシー!」

ニールの怒鳴り声が、会場に渦巻く歓声の合間に聞こえる。

「ニール、早く機体に戻れ!」

マイクから聞こえるレオンの呼びかけに、彼は自分の機体を立て直した。

すぐに上空に舞い上がる。

俺はカズコの子機のサポートを受けながら、ゴールエリアを守るのに必死だ。

レオンの機体が応援に駆けつけた時には、さらに1点が追加された。

ニューボール出現位置に、カズコの子機が控えていた。

現れると同時につかんで、飛び上がる。

相手機からのマークを振り切ったニールに、パスがまわった。

俺についていた相手の機体が、ニールへ向かう。

俺はルーシーとの機体のシンクロ率を、100%にあげた。

「ルーシー! そのまま何もしないで、座ってて!」

操縦席で混乱していたルーシーが、大人しく操縦桿を握った。

そのタイミングで、急上昇させる。

ニールの開発したミラープログラムを使って、ゴールエリアを起点に、点対称な動きをさせるよう設定した。

ニールのパスが、ルーシーに渡る。

俺はそれを動かして、カズコの子機にパスを出し、カズコはそれをレオンに送った。

残り20秒、こちらの攻撃態勢が、ようやく整った。