「ダンジリ!」


大人の男たちが肩へ担いでいる大きなダンジリが、すぐ横を通り過ぎた。


ダンジリには色とりどりのチョウチンがぶら下がっていて、屋根には大きな作り物の金魚が乗っかっている。


林檎飴を食べながらその金魚を見送っていると、その眼がギロリとこちらへ動いた。


「金魚がこっち見た!」


それでも怖くはない、ただただ楽しかった。


こんなお祭りがいつまでも続くと思っていた。


毎年毎年、必ず繰り返されると思っていた。


人の関係がどんどん軽薄になり、伝統行事が失われていく時代になっても、それは変わらないと思っていた。


よく晴れた夏の日に昼間から浴衣を着て待っていた時、《雨天中止》の知らせが来ても。


ずっとずっと、待っていた――。


『祭りは死んだ』


林檎飴をくれた店のおじさんが、灰色の濁った目をして呟いた。


祭りは死んだ――。


その言葉の意味はよくわからなかったけれど、桜子は胸に大きな穴が開き、悲しさに包まれたのだった。