ドクターの飲まされた水のせいで頭の中がフワフワと浮いている。


足元がおぼつかなくて、壁に手を当てながら階段を登っていく。


「桜子」


一階まで上がってきて声をかけられ、桜子は回転しはじめる視界で修哉を見た。


会議が終わってネクタイを緩めた修哉がグルグルと回って見える。


「修哉……」


「聞いてくれよ、今日の会議は実に有意義だったんだ。今後の会社の方向性も決まった。これで引越しも視野に入れられるぞ」


修哉は桜子の両親が亡くなってから引越しを考え始めるようになっていた。


亡くなった人の思い出が詰まった場所にいると辛いから。


本人はそう言っているけれど、実際は何が目的なのかわからない。


「ごめんなさい。その話し後でいいかしら?」


いよいよ立っていられなくなって、桜子はソファにつく手前で床に寝そべってしまった。