その時、突然頭上から大きな笑い声がして、私は現実に引き戻される。
石段を駆け下りてくる3人の少年。奥にある神社の周りで遊んでいたのだろう。無邪気な様子に思わず頬が緩んだ。
寒さに耐えきれない私と違って、半袖半ズボンの彼らにはまだまだ秋は遠いようだ。まるで、見えない境界線があるようだと苦笑してしまう。
こうしてまた、夏が終わっていくのだ。
鬱蒼と茂る木々も。
少し欠けて、時代を感じさせる鳥居も。
あの頃から、ちっとも変わっていないのに。
「変わったのは、私だけ、なのかな」
汗を振りまきながら駆けていく少年たちの後ろ姿を見送って、私は静かにため息をこぼした。
まるでタイミングを図ったかのように、背後にそびえる森の奥からヒグラシの鳴く声が聞こえてきて、胸が苦しくなる。
『佳奈ってさ、ヒグラシの鳴き声みたいな名前だよな』
無邪気に笑う、彼の声が聞こえた気がした。