『ねえ、イツキは何の楽器を練習してるの?』
『鉦とか、太鼓とか。……いつかは笛をやりたいんだ』
大人に〝笛はもう少し大きくなってから〟だと言われたことが不満だ、と頬を膨らませて言っていた。その話を聞いて、私は自分が何て幼稚なのだろうと思い知ることになった。
樹が直前まで練習していたという鉦をおっかなびっくり触らせてもらうと、カン、と高い音が響く。驚いて思わず声を上げてしまった私を見て笑うと、優しく教えてくれた。
『そのバチを擦るように動かして』
言われた通り手にしていた細長いバチを鉦の中で動かすと、バチの頭と鉦が当たって金属が擦れる音がする。しかし決して不快な音ではなく、軽快なリズムを刻んでいるようで楽しい。
『うん、そう。できたじゃん』
褒められたことが嬉しくて、調子に乗った私はしばらくの間鉦をカンチキカンチキ鳴らし続けた。
樹と仲良くなったのは、そこからだ。
隣のクラスにいることが分かってからは、学校でもよく話すようになったし、通学路も同じだったから一緒に帰ることも多くなった。
祭りに参加できることが羨ましくて見に行っていたお囃子の練習も、いつしか樹に会いたいから行くようになってしまっていた。
さすがに小学校高学年になる頃には行かなくなってしまったが、笛を練習することができるようになったと報告を受けた時は自分のことのように嬉しかった。