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引きずられるようにして半ば強引に押し込まれたのは、古びた軽ワゴン車の助手席だ。後ろの荷台から、カチャンカチャンとケースに入った瓶の擦れる音が響く。

樹は、慣れた手付きでぶるぶる震えるシフトレバーを動かしている。


「まさかマニュアル車だなんて」

「驚いたろ? ボロだけど親父が気に入ってて、なかなか手放せなくてさ」


町内で言えば隣町にある樹の家は、酒屋を営んでいる。
子どもの頃は薄暗くてどこか大人の秘密めいた店内が面白くて、皆でよくかくれんぼをしていたっけ。
その度に恰幅の良い樹の父親に見つかって怒られて、全速力で逃げたこともあった。

断片的に脳裏に思い出されていく懐かしい思い出に、ふ、と笑い声が漏れた。


「なに笑ってんだよ」

「ううん、何でもない」


もし樹と付き合っていなければ、いつまでもあの頃のような友達でいられたのかもしれないと、ちくりと胸が痛む。今更そんなことを考えたって、どうしようもないことなのに。

ーーだから、樹だけには会いたくなかったんだ。

時間を巻き戻して、こんな風に他愛もない会話をずっとしていたい。そんな淡い幻想を、私は頭の片隅から追い出そうと必死だった。


「ーー佳奈?」


いつの間にか家の前に着いていたらしい。
停車した車の中、記憶より大きな手のひらが私の視界を遮ってひらひら揺れている。


「あっ、ご、ごめん! 送ってくれてありがとう」


慌てて車から降りようとドアを引くけれど、びくともしなかった。


「あれ? 樹、ドアのロックがーー」


ロックを解除してもらおうと振り返ると、何故か樹が運転席から身を乗り出していて。
この勢いのまま近付いたらぶつかってしまいそうで、咄嗟に膝の上に置いていた買い物袋を抱え上げた。


「ひゃあ!」

「わっ、おい!」


ーー私は、7年振りに会った元カレに突っ込んでいた。

一升サイズの、醤油のペットボトルを盾にして。