「だいたい女のあたしといつまでもベッタリなのも考えもんよ? ねえ陽太、そろそろ男の友達を作りな?」

「だってみんな、僕と仲良くしてくれないもん……」

 機嫌が直ったと思ったのに、またしても不貞腐れてしまった。
 頬をプウと膨らませ、今にも泣き出しそうな表情で俯いている。

(仕方ないなあ……)

 葵は溜め息をひとつ吐くと、自分のショートヘアを手でクシャクシャさせた。

 陽太は生まれ付き、身体があまり丈夫ではない。
 そのせいか、同年代の男の子達と比べると華奢で、肌の色も女の子の葵でも妬ましく思えるほど白い。

 また、よく苛められてもいた。
 ことある毎にからかわれ、そのたびに葵が助けてあげていた。

 葵は陽太とは対照的に女の子とは思えないほど喧嘩が強く、周りの男の子達には一目置かれた存在でもあった。
 だから、葵が側にいる時は、男の子達は陽太を苛めるどころか、近寄って来ようともしない。

 うっかり喧嘩を売ろうものなら何倍にもして返されるから、絶対に手出しはしない方がいい、と彼らの間で暗黙の了解があったようだ。

(あたしだって、一応女の子なんだけどな……)

 自分より女の子らしい陽太を見つめながら、葵はふと思う。

 一方、陽太は葵を小首を傾げつつ不思議そうに見ている。
 そのさり気ない仕草がまた可愛らしくて、つい、ムッとしてしまう。

「ほら! とっとと帰るよ!」

 葵は陽太から視線を外すと、クルリと踵を返した。

「えっ! まま……、待ってってば!」

 その後ろを、陽太が慌てて追って来る。

(ほんと、いつになったら陽太のお守りから解放されるんだろ……)

 葵はひっそりと溜め息を吐きながらも、陽太に負担をかけさせまいと歩幅を縮めて歩いた。