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「葵ちゃーん!」

 学校の昇降口を出ようとした時、声変わりのしていない少年の声が葵の耳に飛び込んできた。

 葵はその場で足を止めると、ゆっくりと振り返る。

「や……やっと……追い着い……た……」

 背中のランドセルを揺らしながら葵の前まで走ってきたのは、幼なじみの陽太(はるた)。
 陽太はずっと走りっ放しだったのか、葵に追い着くと、ゼイゼイと何度も肩で息を切らした。

「ああもう! 何やってんの!」

 葵は眉間に皺を寄せながら、両手を腰に当てた姿勢で陽太の前に仁王立ちした。

「急に走ったりしちゃダメだって言われてるでしょ? 無理したらまた学校を休まなきゃなんなくなるんだからね!」

「――だって葵ちゃん、僕を置いて先に帰ろうとするから……」

 陽太は恨めしげに葵を睨んだ。

 そんな視線をまともに向けられると、さすがの葵も何も言えなくなってしまう。

「わ、悪かったよ……」

 葵が気まずそうに謝罪を口にすると、陽太はすぐに機嫌を直し、花が咲いたように満面の笑みを浮かべた。

「じゃ、一緒に帰ろ」

 陽太は無邪気に言い、葵の手に触れようとしてきたのだが――

「こっ、コラッ!」

 あと少し、というところで、葵は慌てて手を後ろに隠した。

「いい加減手を繋ぐのは卒業しようよ。だって、あたしも陽太も来年はもう中学生なんだよ? 恥ずかしいでしょ普通」

「え? 恥ずかしいかな?」

「当たり前だっ!」

 小首を傾げながらキョトンとしている陽太に、葵は鋭い突っ込みを入れた。