◆◇◆◇
陽太一家の引っ越し当日となった。
その日は平日で、当然ながら学校もあったが、母親に頼み込んで休ませてもらった。
「葵ちゃん、ずっと黙っててごめんね……」
陽太は今まで暮らしていた家の前で、葵に謝罪してきた。
葵はいつもの腰に両手を当てた仁王立ちスタイルで、「全くだよ」と言った。
「一言言ってくれれば良かったのに……。長い付き合いだってのに、ほんと水臭いよね!」
「ごめん……」
「ああもう! 何度も謝んないで!」
葵はそう言うと、陽太に手の平サイズの紙の小袋を渡した。
中には、今年植えたヒマワリから採れた種が数粒入っている。
「これ、陽太への餞別。大事に育てなよ」
「ヒマワリの種だね? うん、ありがとう。大切にする」
陽太は小さく笑むと、それをポケットにしまい込み、今度は逆に葵に白い封筒を渡してきた。
「これは?」
葵が訊ねると、陽太は「写真だよ」と答えた。
「今までずっと渡しそびれてしまって……。葵ちゃん、とっても可愛く映ってるよ。写真映り、すっごくいいと思う」
「――陽太……、あんた、そんなことよく平気で言えるね」
「そう? 僕はただ、正直な気持ちを言っただけなんだけど」
「だから、それが普通じゃないよ」
「ふうん……」
陽太は小首を傾げながら葵を見つめる。
その表情は、何となくいつもの陽太とは違っているように感じた。
「陽太ー!」
陽太母が彼を呼んでいた。
「ほら、もう行きなよ」
葵が促すと、陽太はゆっくり頷いた。
「それじゃあ葵ちゃん、今までありがとう。落ち着いたら、手紙書くからね」
「うん、分かった」
「葵ちゃん、元気でね」
「陽太もね」
「手紙、絶対に書くから」
「それ、さっきも言ったし」
「あ、そうだったね」
少しでも長く、陽太といたい。
いつの間にか、葵はそんなことを考えていた。
だが、時は残酷にもふたりを引き離してしまう。
「葵ちゃん、バイバイ」
その言葉を最後に、陽太は少しずつ葵の側をすり抜けて行った。
陽太一家の引っ越し当日となった。
その日は平日で、当然ながら学校もあったが、母親に頼み込んで休ませてもらった。
「葵ちゃん、ずっと黙っててごめんね……」
陽太は今まで暮らしていた家の前で、葵に謝罪してきた。
葵はいつもの腰に両手を当てた仁王立ちスタイルで、「全くだよ」と言った。
「一言言ってくれれば良かったのに……。長い付き合いだってのに、ほんと水臭いよね!」
「ごめん……」
「ああもう! 何度も謝んないで!」
葵はそう言うと、陽太に手の平サイズの紙の小袋を渡した。
中には、今年植えたヒマワリから採れた種が数粒入っている。
「これ、陽太への餞別。大事に育てなよ」
「ヒマワリの種だね? うん、ありがとう。大切にする」
陽太は小さく笑むと、それをポケットにしまい込み、今度は逆に葵に白い封筒を渡してきた。
「これは?」
葵が訊ねると、陽太は「写真だよ」と答えた。
「今までずっと渡しそびれてしまって……。葵ちゃん、とっても可愛く映ってるよ。写真映り、すっごくいいと思う」
「――陽太……、あんた、そんなことよく平気で言えるね」
「そう? 僕はただ、正直な気持ちを言っただけなんだけど」
「だから、それが普通じゃないよ」
「ふうん……」
陽太は小首を傾げながら葵を見つめる。
その表情は、何となくいつもの陽太とは違っているように感じた。
「陽太ー!」
陽太母が彼を呼んでいた。
「ほら、もう行きなよ」
葵が促すと、陽太はゆっくり頷いた。
「それじゃあ葵ちゃん、今までありがとう。落ち着いたら、手紙書くからね」
「うん、分かった」
「葵ちゃん、元気でね」
「陽太もね」
「手紙、絶対に書くから」
「それ、さっきも言ったし」
「あ、そうだったね」
少しでも長く、陽太といたい。
いつの間にか、葵はそんなことを考えていた。
だが、時は残酷にもふたりを引き離してしまう。
「葵ちゃん、バイバイ」
その言葉を最後に、陽太は少しずつ葵の側をすり抜けて行った。