残念ながら、助けたのはお姫様でも、豪商の娘でも、貴族の娘でも無かった。

 ハーフエルフの町娘だった・・・。まぁエルフが居る事がわかっただけでも収穫には違いない。
 これなら、ドワーフとかも居るだろうし、いろいろ見て回ったら楽しそうだな。ゴブリンやコボルトが居る事や、リーゼがゴブリンに”犯される”と言っていたことを考えると、ラノベ設定のままだと考えて良さそうだ。

「ねぇヤス。僕・・・」
「どうした?乗らないのか?」

「・・・あのね。僕・・・。着替えを・・・。その・・・。あの・・・」

「あぁいいぞ、待っていてやるから着替えてこいよ。馬車の中に、何かあるのなら持っていこうぜ!特に、食べ物とかな!」

 飛ばす事ができれば、ユーラットまで数時間で到着できるだろう。ゆっくり走って、多分明日には到着できるだろう。
 それなら、どこかで野営をしなければならない。水は・・・まだペットボトルが有ったから大丈夫だろうけど、食べ物が殆ど無い。馬車での移動なら、食べ物くらいは積んでいただろう。”うまい”か”まずい”かは置いておいて、腹が減っては運転に支障が出てしまう。

「うーん。食べ物・・・無いと思う。あれば、僕も、ゴブリン共に食べ物投げて逃げる事ができた・・・。おいていかれた御者も殺されないで済んだと思う」

「そうか・・・。リーゼ。まずは、着替えてこいよ」

「うん。わかった!」

 あっカメラがある事言っていなかった。
 ディアナの後ろに回っていくリーゼの姿が映っている。

「ディアナ。ディスプレイを切ってくれ」

 ”了”とディスプレイに表示されて、モニターから後方の映像が消えた。

 リーゼをどこに座らせるか・・・だけど、助手席は座れるような状況じゃないし、俺の膝の上では、俺が疲れてしまう。後ろは速度を出すと跳ねるし掴まる場所もすくない。そうなると居住区になってくる。

 居住スペースを覗いてみるが、見られて”まずくないもの”がない。全部を隠したほうがいいだろう。
 でも・・・な・・・。隠すのも面倒だし雑誌類だけ隠しておけばいいかな。あとは、”アーティファクト”で通そう。

 リーゼが戻ってきた。
 上着も変えてきたようだ。

 少しだけなにかを燃やした匂いがした

「ヤス・・・。どうしたの?」

 少しだけびっくりした。
 薄汚れていた顔が綺麗になっている。着替えの時に拭いたのか?

 汗臭いとか・・・、おしっこの匂いとか・・・、いろいろ気にしたのか?
 そういやぁ俺のほうが汗の匂いがしない可能性がある。ファブ○ースとアリ○ールはすごいな。

「なんでもない。何か燃やしたのか?」
「え?なっなんで?」
「ん?いや、さっきまでしなかったけど、布が燃えるような匂いがしたからな」

『告。雌が脱いだ下着を燃やしました。雌は、自分の下着で放尿あとを拭いてから燃やしています。証拠の動画があります再生しますか?』
「下着を燃やした?いい必要ない。消せ」
『告。証拠動画のため削除できません。雌は新しい下着を取り出して履いてから魔法を発動しました』

「え?ヤス?」
「あっなんでもない。燃えた匂いが気になったけど、結局わからなかっただけだ」
「本当?」

 明らかに、リーゼがホッとしている。恥ずかしかったのだろう。汚れた下着をアイテムボックスに入れる気にもならなかっただろうし、そのまま捨てるのはもっと恥ずかしいというわけだな。それで燃やしたのだろう。

「あぁ。乗っていくだろう?」

 ディアナのドアを開けながらそう答える。

「どうやって乗るの?」

 戸惑っていると思ったら、そうだよな。
 馬車と違うし初めて見るのだろう、乗り方を知っているはずがないな。

 手を差し出すと、少しだけ躊躇してから、手を握ってきた。

「えへ」

 なんだ、素直で可愛い表情もできるのだな。
 少しだけ照れた顔がすごく可愛い。

 手を握って引っ張り上げる。

「狭いから注意しろよ。あぁ奥に・・・そうそう、そこのカーテンの奥が居住スペースだから、そこに居てくれ」

「え?あっはい」

「お・・・。靴は脱いでくれ、土足禁止だ」

 ディアナの運転スペースは違うが、居住スペースは土禁にしている。

「うん。わかった」

 履いていたブーツの様な物を脱ぐ。素足のようだ。リーゼは、ブーツをどこにおいていいのか迷っていたから、居住スペースと運転席の間に置くように言った。素直に従ってくれるようだ。

「ねぇヤス。これもアーティファクトなの?」

「あぁそうだけど、なにか気になるのか?」

「気になる・・・って、全部だけど、知らない物ばかりだよ。ヤスは、使い方とか解るの?」

「おおむね、わかるぞ。神殿の効果かもしれないけど、知識が流れ込んできたからな」

「へぇ・・・。すごいのね(祖母(ババ)様ならなにか知っているとは思うけど)」

「あぁしっかり座れよ。動き出すからな」

「わかった」

 リーゼが、居住スペースに座ったがカーテンを開けた状態でこっちを見ている。物珍しいのだろう。

 まぁいい。
 アイドリング状態からエンジンストップになっていたディアナを再スタートする。

 エンジンに火が入る。
 ゆっくりとした振動とエンジン音で心が落ち着いてくる。

「よし行くか!」

 アクセスを踏み込む。
 エンジンの回転数が上がる。路面のことを考えて、2速でスタートする。しっかりクラッチが繋がった感触が足に伝わる。パドルからもギアが入ったのが伝わる。

 タイヤはしっかりと路面を掴んでいる。
 ブレーキバランスもオート状態で問題ないだろう。

 ゆっくりとディアナが動き出す。
 徐々に速度が上がっていく、ナビが光る。自分の位置と目的地方角を示す線が表示される。さっきまでと違うのは、ナビの画面に赤い点が表示されている事だ。

「ディアナ。この赤い点は?」

『エミリアが答えます。マスター。ディアナのディスプレイに表示される赤い点は、認識できたゴブリンとコボルトです』

「そうなのか?距離的に合わない位置にも表示されているけど?」

『マスター。マルスが神殿に記憶されていました古代魔法を調べました。”魔素検知”が使えるようになりました』

「魔素検知?」

『生き物は、魔力パターンを持っています。種族により一定のパターンが存在します。そのパターンを検知する機能です』

「え?そうなると、人族は全部同じなの?」

『マスターの知識を検索・・・成功。DNAの様な物だとお考え下さい』

「・・・ん。わからんけど、人族でもみんな違うけど、種族で決められたパターンがあるって事でいいのだな」

『はい』

「わかった。それで、その魔素検知はどのくらいの距離で使える?」

『現在のディアナでは、500mが限界です』

「今の?今後伸びる可能性があるのか?」

『はい。魔物を討伐する事で機能を強化する事ができます。先程のゴブリン討伐で、魔素検知がディアナに組み込まれました』

「おぉぉそうか、これから、機能が増やせそうなときには教えてくれ俺も選びたい」

『かしこまりました。マスター。雌・・・リーゼが、不審な表情を浮かべています』

 フロントガラスに映る表情は、不審というよりも、不安な表情だな。

「リーゼ。すまん。ディアナに関しても、俺も覚えている最中で、わからない事も多い」

「ううん。それはいいけど、魔素検知とか言っていたけど、探索魔法が使えるの?(ヤスの言っている言葉しかわからないから断片的にしかわからないけど・・・)」

 おっアイテムボックスって話していたから、魔法があるとは思っていたけど、やっぱり有るのだな。
 そう言えば、俺も”生活魔法”が使えるとなっていたな。

「探索魔法が、どんな物かわからないけど、ゴブリンやコボルトを見つける事はできるみたいだ」

「特定の魔物を?」

『探索魔法を検索・・・失敗。古代魔法ではないようです』

「あぁ・・リーゼ。ワリぃ。俺、魔法に関する知識がすっぽり消えているから教えてくれる嬉しい。古代魔法とリーゼが言っている魔法って違うのか?」

「こっ古代魔法?ヤス。古代魔法が使えるの?え?賢者様?」

「違う。違う。だから、俺は普通の人族だって言っただろう。マルスが、古代魔法の一部が使えるみたいで、その一部がディアナでも使えるだけらしいぞ」

「・・・そうなの?」

「あぁ」

 ディアナは、順調に走っている。
 速度固定にしているから、35km程度で走り続けている。いつの間にかステアリングに増えた、オートボタンを押すと、ナビに”オート運転。目的地まで16時間41分”と表示されている。道路が無いのに、どうやって時間を割り出しているのか気になったが、突っ込んでもしょうがないだろう。あと、半日ちょっとで到着する事になるらしい。