「ディアス。二人の様子はどうだ?」
『エミリアが応えます。ファーストからの問題点の指摘はありません』
「そうか・・・」
神殿を出て、ユーラット経由でアシュリに向かっている。
一度、アシュリでルーサに会って、リップルの動向を確認してから、鉱山の村に向かう道を考えることに決まった。
「ディアス。ファーストに連絡して、アシュリの駐車スペースに停車させろ」
『了』
運転しているのは、リーゼだ。
ヤスの指示に従って、駐車スペースにFITを停めた。
リーゼが運転席。サンドラが助手席に座っている。後部座席には、ファーストと狼が乗っている。着替えや食料などは、トランクに入っている。狼にしたのは、リーゼとサンドラの魔力が切れた時の供給元にするためと、女性三人での移動になり、安全面を考慮した結果だ。
ヤスのトラクターには、猫と栗鼠が護衛として乗っている。空からは鷲がヤスを中心に周りを警戒している。
「ヤス!」
トラクターを停めた場所に、ルーサが近づいてくる。
「悪いな。忙しい時に」
二人は、握手をする。
ファーストも降りてきている。手には、樽を抱えている。
「ルーサ。皆でやってくれ、イワンが言う二級品の酒精だ」
「蒸留酒か?」
「あぁ30年物だ。イワン基準では、それほどうまくないらしい」
ヤスはルーサに渡す酒樽の説明を笑いながらしている。
「ハハハ。そりゃぁ楽しみだ。この前の三級品と言われた酒精でも素晴らしくうまかった。ありがたくもらう」
ルーサが部下に酒樽を受け取って宿舎に届けるように命じた。二人の部下はファーストから樽を受け取った。
「それで、リップルはどの辺りを通っている」
「今から説明する。嬢ちゃんたちにも説明するのか?」
「頼む。彼女たちが道案内だ」
ヤスは、二人を手招きした。
ルーサは、サンドラとは面識が会ったが、リーゼとは初めてだった。挨拶を交わして、ルーサの執務室に移動した。
「始めてくれ」
ヤスの声で、ルーサの部下がモニターを使って説明を始めた。
おおよその位置だが、ルーサたちが把握している状況を説明した。リップルがまとめている”軍”は、レッチュ領を迂回するように避けて、進軍している。
「奴らは馬鹿なのか?」
話を聞き終えた、ヤスの正直な感想だ。
サンドラとルーサも同意している。
「ねぇヤス。何が馬鹿なの?」
「ん?あぁそうか・・・。リーゼ。奴らは、レッチュ辺境伯。サンドラの父親と喧嘩したくないから、領を通らないルートを選んでいる。これはわかるよな」
「うん。当然だよね。サンドラの所と喧嘩したら、大変だよ」
なにか、感想が微妙だがヤスは気にしないで説明を続ける。
「そうだ。でも、迂回すればそれだけ時間がかかるよな」
「うん。当然だよ」
「それも大量の兵を連れている」
「うん。遅いよね」
「あぁそうなると、腹が減る。食料が必要になる」
「うん。それは、僕でも解る。だから、沢山の食料や物資を持っていくのだよね?」
「普通はそうだ。でも奴らは、途中にある村や町で、食料を徴発している。簡単に言えば、”よこせ”と言って奪っている。それだけじゃなくて、戦える者を一人も残さずに連れて行くと言っている」
「え?なにそれ?おかしいよ!」
「そうだ。おかしい。だが、奴らは、それが正しいと思っている」
「だって、そんな食料を奪った上に、戦えるというのは、働けるということでしょ?連れて行ったら、村や町が困るよね?それに・・・」
「それに?」
「うーん。うまくいえないけど、リップルに苦しめられた人が、リップルのために戦うのかな?僕なら、戦う前に逃げ出すか、手を抜いて適当に戦うよ」
「そうだな。だから、ルーサもサンドラも呆れている」
ヤスは、驚いていた。リーゼが本質の部分が解っていたからだ。サンドラとルーサも、リーゼの発言には驚いている。
「ねぇヤス。リップル子爵は、何がしたいの?このままアシュリに来ても、ルーサが大声で、『リップル子爵を裏切って神殿に味方すれば、腹いっぱい食べられるぞ』的なことを言えば、裏切ってくれるよね?僕なら、村をめちゃくちゃにして、食べ物も少ない状態なら、騙されてもいいかなと考えちゃうよ?」
皆が固まる。
今まさにルーサはリーゼが言った作戦を実行中なのだ。切り崩しを行っている最中なのだ。
「リーゼ?」
「ん?」
ヤスは、リーゼの頭をくしゃくしゃと撫で回した。
「ヤス!何するの!」
「お前、しっかり考えているのだな。びっくりしたよ」
「酷い!僕でも、そのくらいは解るよ!」
「そうだな。でも、少しでも考えれば解る事がわからない奴らが、関所に進軍している最中だから困っている」
「ふぅーん」
「興味がなさそうだな」
「だって、これなら魔物の方が怖いよ」
「そうだな。サンドラ。鉱山の村までは行けそうか?」
ヤスは、リーゼの頭に手を置いたまま。サンドラに話しかける。
ルーサはなぜかヤスとリーゼを見てニヤニヤしている。
「当初の予定よりも、リップルが遅いので、ルートを変えたほうが良さそうです」
「そうか、そうなるとどこかで一泊したほうがいいよな?」
「はい。領堺に町があります。代官も知っていますので、その町で一泊してから向かいましょう」
「わかった。道はサンドラに任せる。リーゼもアーティファクトの操作を任せるな」
「うん!任せて!」「ヤスさん。お父様に連絡を入れておこうと思いますが、よろしいですか?」
「そうだな。頼む。次いでに、リップルのバカどもの動向も教えた方がいいだろう」
「わかりました」
サンドラは、執務室を出ていく。
ヤスは、今回の道案内の報酬として、リーゼにはFITを与えた。サンドラにもFITで良いかと聞いた。
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「サンドラ。道案内の報酬だけど、アーティファクトでいいのか?」
「ヤスさん。ワガママを言うようで申し訳ないのですが・・・」
「ん?なにか欲しい物があるのか?」
「はい。ヤスさんが、ルーサさんに渡している、小型魔通信機を所有させて頂けませんか?」
「ん?あれでいいのか?そうだな。サンドラにはいろいろに折衝とかしてもらうから、専用の端末が有ったほうが楽だろう。準備するよ。持ち運びできる形でいいのだよな?」
『マスター。個体名サンドラに渡す端末は、”スマホ”をお勧めします』
『どういうことだ?』
『装置名小型魔通信機は、普及型です。個体名ドーリスや個体名ディアスにも持たせる必要が出てきます。報酬として与えるのなら特別な物にすべきです』
『わかった。でも、それだけじゃないのだろう?』
『はい。カメラ機能や情報閲覧機能などを残した形で提供し、個体名サンドラにモニターをやってもらいましょう』
『わかった。マルスの好きな様にしてくれ』
『ありがとうございます』
ヤスは、サンドラの視線に気がついた。マルスとは念話だったので、サンドラには黙ってしまったように見えたのだろう。
「サンドラ。準備が出来たら渡す。使い方は、マルスかセバスに聞いてくれ」
「ありがとうございます!」
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サンドラは、スマホを取り出して、ルーサから聞いた内容が参照できる状況なのを確認してから、父親であるクラウス辺境伯に連絡をした。
クラウス辺境伯から、領堺の町に連絡してもらって、滞在が許可された。
そのまま、サンドラのナビで鉱山の村に到着したのは、翌日の昼過ぎだった。
物資を降ろして、物資を積み込む。翌日の朝には出発できそうになったが、問題が発生した。
領主の意を汲んだ者たちが鉱山の村に向かっているのだ。
ヤスは、トラクターで突破出来るだろうと思っているが、リーゼとサンドラは問題が発生する可能性がある。
「リーゼ。サンドラ。事情が事情だ。一泊してから一緒に帰る方法もあるが、領堺の町に先に戻ってくれ、ドワーフたちの受け入れを頼みたい」
鉱山の村を襲いに向かっている者たちは、二日後にくると予測された。鉱山の村に近づいてきている集団を鷲が見つけて、栗鼠が眷属を派遣して判明したのだ。
ヤスは荷物の確認をした。あとは積み込むだけになっているのを確認して、ドワーフたちと協力して二つのコンテナに積み込んだ。
まずは、道具から積み込んだ。鉱石は、積み込めなければ諦めてもらう。ファーストと狼が協力して、鉱山の村に向かっている者たちに嫌がらせを行って到着を遅らせている。ファーストと狼なら全滅させることも可能だが、ヤスが許可を出さなかった。クラウス辺境伯から、なるべく人を殺さないで欲しいと言われているからだ。
荷物は積み終えた。
ドワーフ達は、襲ってくる者たちの到着予定よりも1日早く村を離脱できた。ドワーフたちには、鷲の眷属が護衛に付く、狼の眷属も協力して神殿までの道をサポートする。
ファーストと猫と栗鼠と狼を乗せたトラクターは、領堺の町にはよらずに神殿を目指す。
サンドラには、マルス経由で話が伝えてもらった。
『ヤス!』
「ん?リーゼか?」
『うん。僕たちは、領都に寄ってから、神殿に帰るね。辺境伯様がなにか渡したい物があるらしいよ』
「わかった。サンドラ。辺境伯からしっかりと依頼料を取れよ」
『はい。解っています。残った酒精もお父様に買ってもらいます』
「わかった。任せる。俺は、神殿に向かうから、サンドラ。リーゼを頼むな」
『はい。お任せください』
『ヤス。酷い!僕は大丈夫だよ!』
「そうだな。リーゼ。安全運転で頼むな」
『うん!ヤス。神殿に会おうね』
「わかった」
鉱石や炉以外の道具を限界まで詰め込んだコンテナは重たかったが、ヤスは制御できるギリギリの速度で走っている。
道は悪いが、車重があるので安定して走っている。大きな穴は、発見次第、魔法で対処している。
神殿に向かう道は荷物が多いので断念した。登ろうと思えば登れただろうが、道を塞いでしまう可能性もあるので、ヤスはトラクターをユーラットに停車して、カスパルや運搬が出来る者たちを使ってピストン輸送した。荷物の多さも有ったが、人員の確保が難しく、二日間ほどかかってしまった。
その間、ヤスはユーラットでロブアンの宿で世話になった。
荷物の輸送が終わりかけていたときに、サンドラを助手席に乗せたリーゼがユーラットに到着した。