『高橋さん、大丈夫ですか!?』

 再び耳朶を叩いた救いの声に、私の意識は闇の淵から現実へと強引に引き上げられる。

――この、声は……。

 聞くものを安心させるような、温かみを持った、この声音は――。

 名前を呼ばれただけなら、願望が生んだ空耳かもしれないと思っただろう。

 でも、空耳ではありえない。

 その証拠に、私を抱えベット・ルームへと向かっていた男の足の動きが、ぴたりと止まった。

「――貴様、誰だ?」

 明らかに動揺の色が隠せない様子の男の低い声が、広い空間に虚ろに響く。

 この部屋に私たち以外の人間がいないことは、この男自身が一番よく知っているはず。

 いないはずの第三者の声が室内で上がったのだから、厚顔無恥な蛇親父も、さすがに動揺しているのだろう。

 男は私をその場で床に降ろすと、声の主の姿を求めて周囲をぐるりと見渡し始めた。

 飲まされた薬の効果でまだ身体に力が入らない私は、冷たい大理石調のオフ・ホワイトの床に横たわったまま、その様子を見ていることしかできない。

『谷田部凌。あなたの罪状は明らかです。それ以上、罪の上塗りは止めなさい』

 動きながら声を発しているように、幾分語尾が乱れてノイズが混じる。

 肉声と言うよりは、何か機械を介して流れる、そう、まるでラジオの音源のようだ。

「ここか!?」