「美加ちゃん、やっと寝ましたよ」
アルコールのせいばかりではなく、自然と緩んでしまう頬の筋肉を引き締めつつ、ポリポリとおつまみを口に運ぶ課長に声をかける。
「そうか……。少しでも、気が晴れたなら、いいんだが」
どこか心配げな柔らかな笑みが、その顔に浮かぶ。
常識人の課長らしからぬ深夜の部下宅来訪は、もう一人の傷心の部下を心配しての事だったらしい。
「美加ちゃんなら、大丈夫ですよ、きっと。彼女は、ああ見えても芯の強いしっかりした女性ですから。私も、出来る限りフォローしますから」
小型の愛玩犬を思わせる愛らしい華奢な外見からは想像できないほど、彼女は仕事をバリバリこなすキャリアウーマンなのだ。
今回は、その熱心さが裏目に出てしまったけれど、これに懲りて仕事をおろそかにするような無責任なことを、彼女はしないだろう。
でもだからこそ、頑張り過ぎてしまわないように、気を配るのは先輩である私の役目だと思う。
「ああ。よろしく頼むよ。男の俺では、踏み込めないこともあるだろうから」
「はい。任せて下さい」
美加ちゃんは、後輩である前に大切な友人だ。
格好つけて言うなら、『親友』。
課長に頼まれるまでもなく、元の元気な美加ちゃんに戻ってくれるなら、彼女のためになるなら、出来る限りのことをしよう。
心の内で、私は、改めて強くそう誓った。