私の父親は、とても寡黙な人だった。
大工という職業柄か生来がそう言う気質だったのか、何をするにも黙々と作業をする人で、私が幼い頃には良く仕事で出た木っ端を使って、お手製の『積み木』を作ってくれた。
紙やすりを持った大きくて節くれだった武骨な指が、鋭くささくれている木っ端の角を、丸みを帯びるまで何度も何度も丁寧に往き来する。
ザラリザラリ、ザラリザラリと。
まるで子守唄のような優しい響きを持ったあの音が大好きで、少しずつ形を変えていく様が楽しくて、父の背中越しに、その光景を飽きることもなく見ていた、幼い日。
その頃の自分に、すうっとリンクする。
『あど少すだはんでな、あー坊』
あと少しだからな、と東北特有の独特のイントネーションを持った低い声が、優しく耳朶じだをたたく。
――ああ、夢だ。お父さんの、夢。
辛いことがあった時。悲しいことがあった時。
決まって、心に大きすぎるマイナスの負荷がかかった時に見るその夢は、私を不器用で頑なな女から、父の娘だった頃の幼い女の子に引き戻してしまう。
たぶん、五、六歳。
お誕生日に買ってもらったお気に入りの白いワンピースを身に纏い、耳の後ろで二つに縛った黒髪には、母が結んでくれた赤いリボンが揺れている。幼い姿をした私は、使い込まれて黒光りする父の作業場の板張りの床をトテトテと歩み寄り、父の傍らに座って膝を抱えこんだ。
ほんのりと、空気を伝ってくる父の温もりを感じた瞬間、必死で抑えていた感情のタガが飛んでしまった。
ぽろぽろぽろぽろと、後から後から大粒の涙が零れ落ちて止まらない。
どうしようもなくて、ただ膝に顔を伏せて『えぐえぐ』としゃくりあげた。