5月になりぼくは
南持田町にある喫茶店で
ウエイターのアルバイトを始めた。

ビジネス街の中にある小さな喫茶店で
平日はランチを食べに来るお客さんで
ごった返していたが
夜はお客は少なくひっそりとしていた。

そんな土曜日の
ありふれた夜のことだった。

夕飯時が過ぎて
お客さんもまばらな頃だった。

厨房のアルバイトと
くだらない話をしていた時
ドアが開く音がして振り返ると
二人組の女性が入って来ていた。

慌ててお冷を用意して
お盆に乗せた。

二人組の女性は
カタカナのコの字型になった店内の
一番奥に座っていた。

いらっしゃいませ、と
よそ行きの気取った声を出しながら
僕はいつものように、テーブルに水を置いた。

「お決まりになりましたら、お呼びください」

決まり文句を残しておじぎをし、
その場から立ち去ろうとしたその瞬間だった。

カラダに電気が走るような衝撃が走った。
心臓は叩き起こされたように飛び跳ねた。
カラダ中が瞬時に熱くなるのを感じた。

二人組のうち窓際に座る女性は
深く綺麗な黒髪が肩甲骨のあたりまで
まっすぐ伸びていた。
おおきな瞳の上に長い睫毛が揺れていた。
白く細い手がメニューを支えている。

彼女は少し大人になっていたけど
基本的にはあの頃のままだった。

メニューに目を落としている彼女は
紛れもなく

僕が中学からずっと片思いしていた、
彼女だった。