いつまでも、そばにいると、思ってた

「……ない」

「えっ?」

「だから、まだない」

「本当ですか?」

彼女は拍子抜けしたのか、椅子の背もたれに寄りかかった。

「じゃあ、じらさないでくださいよ!期待したじゃないですか」

そう言うと彼女はやっとレディースセットに箸を伸ばした。

「じゃあなんで教育学部を選んだんですか?」

「なんで選んだかと言うと……」

ぼくはそこまで言うと、再び答えをじらすように、ご飯をかきこんだ。

彼女は呆れた顔で「もういいです」と言ってスープをすすった。

「教育学部を選んだのは消去法」

ぼくがそう答えると、彼女はぼくの言う意味がわからないらしく、不思議そうな表情をした。

「理数系ダメだし、スポーツ苦手だし、法律とか難しそうとか考えたら、教育学部行っとくか、みたいな」

ぼくがそう言うと、彼女はやっと理解できたのか、プッと笑い出した。

「なんか、ヒロくんって面白いね」

面白いなんて人から評価されたのは初めてで、嬉しいと同時に恥ずかしい気持ちになった。

「バカにしてる?」

「全然!そういうんじゃなくて……わたしの周りにはヒロくんみたいな人いなかったから……」

「そう?普通だと思うけど……」

「どの学部選ぶかって、大事な決定じゃない?それで就職先も変わってくるし。なのに、なんかテキトーっていうか、人生いい加減に決めちゃうっていうか」

「やっぱバカにしてんじゃん!」

「違う違う、いい意味で。なんかそういうとこ、羨ましいなって」

彼女が心からそう言っている事は、伝わってきた。

こんなぼくのいい加減さが評価されるなんて、とても意外な事だった。

「あの、そっちは?」

初対面に近い彼女の名前がまだ、気恥ずかしくて、口にできなかった。

「わたし?わたしの夢は先生になること」

「へぇ」

「高校の美術の先生」

そう答えると彼女は伏し目がちに、視線をそらした。

「なんで高校なの?中学は?」

「高校じゃなきゃダメ」

「なんで?」

彼女は顔を上げて、いじわるそうに笑って言った。

「まだ教えられないな」

「なんだよ」

そう言って二人で笑った。